着いたのは初めて会った日の海沿いの店だった


あの日と同じ部屋に通されると暖炉に火が入っていた

海に面した窓に暖炉の炎が映るまで
ずっと彬の肩にもたれていた


私の気持ちが落ち着くのを待ってくれている穏やかな時間は


簡単な恋愛をしてきた私の足りなさに気付かされるには十分で


「今日は帰る
明日学校だし今週で終業だから」


「分かった」


冷静に考えたいと思う気持ちは離れることを選んだ




・・・



家まで送って貰うと、出迎えの母に挨拶をしている彬を見送らないまま部屋に入った


「みよちゃん、加寿ちゃんから電話」


控えめに開けられた扉から家の電話が渡された


「・・・嘘」


慌ててバッグを見ると携帯電話の電源落ちていた


(カラオケで消えてからの話を
ずっと待ってるのに・・・)


電話の向こう側で心配している加寿ちゃんは荷物をまとめて泊まりに来た


「ドラマの展開?」


「・・・ん」


「今のみよちゃんを見てると
彼のことを好きになりかけているのに
不安材料が多すぎて・・・って感じに見えるよ?」


「・・・好き、なのかな」


「嫌いな人がどんな女と遊んでようが関係ないでしょ」


「・・・確かに」


「じゃあやめる?」


「・・・っ」


「だって、与えられるだけじゃなくて
みよちゃんも踏み出さないと関係は進まないんだよ?」


「・・・そう、だよね」


いつもながら私のことは加寿ちゃんが一番知っている

本音は加寿ちゃんに背中を押してもらいたかったのかもしれない


「・・・お腹空いた」


気持ちが落ち着くと、夕飯を食べ損ねたことを思い出した


「私も」


「こんな日はファストフードでしょ」


「うんっ」


重い気持ちを吹き飛ばすように立ち上がった