「素敵なお店ですね」


「嬉しいわ、ありがとう」


離れた席に座っていた狛犬が彬の背後にやってきて耳打ちをする

やがて彬が背後を振り返ったのに
釣られて視線を向けると、女の人が一人こちらに歩いて来たのが見えた


「彬じゃない?」


酔ってるのか足元が覚束無い

彬の肩に手を置いたところで玲奈さんと狛犬が慌てて引き離そうとしたけれど

私に視線を向けた瞬間、眉間に皺を寄せて絡んできた


「何この子、子供じゃない
まさか彬の連れじゃないわよね?」


・・・ウザい


確かに私は子供。だって売られた喧嘩は買う主義だもの


私の顔つきが変化したのを見逃さなかったのか
玲奈さんは宥めるように肩に手を置いた


「相手にしちゃダメよ
彬と付き合う以上、これ位のことは
想定の範囲内よ」


そんな・・・
付き合ってるけど、お試しだし
まだ好きじゃないし

言い訳がましい言葉が頭を巡る


“この子”なんて言われたのに

釘を刺されて気持ちの吐き出す先がなくなった


狛犬と玲奈さんが上手に女を宥めながら引き離すのを見ているだけで

子供丸出しの自分に気付かされる


気持ちを殺してまで大人のフリをするくらいなら

・・・子供のままで良い

気持ちが決まるのは直ぐだった


バッグを持って席を立つと簡単に背を向けた


「みよ」


「・・・」


「みよ、待って」


「サヨナラ」


「みよ!」


追いついて肩に手を掛けた彬を身体を回転させて躱す


込み上げてくる苛立ちに
ストッパーが外れた


「こんなの無理だからね
感情を殺してまで大人のフリをするとか無理だから
結局、歳の差は埋められないんだよ
彬は釣り合いのとれる大人と付き合えば良いじゃん」


沢山文句を並べたのに彬はそっと抱きしめると


「ごめんな」と謝った


「感情を殺すことも、大人になることもない
今のままでいて欲しい」


真っ直ぐな想いを打つけてくるから
結局は彬のペースに引き込まれてしまう


・・・敵わない


「みよは短気だよな」


そのまま店を出ると迎えの車に乗り込んだ


「だって、玲奈さんも“彬と付き合うなら想定の範囲内”なんて言うし
面倒な付き合いならやめようと思ったの」


「過去は変えられないけど
信じて欲しいんだ」


確かに、他人に言われたことに耳を傾けて
お試しでも“彼氏”を疑うのは違う気がする


「でもな、嬉しかったこともある」


「嬉しかった?」


「腹が立つってことは、みよが俺を意識してることに繋がるだろ?
興味もない男のことなんて感情は動かないはず」


そう言われると・・・反論もできず


「さぁ、海でも見に行こうか」


彬の声に、狛犬は車をUターンさせ


「おいで」


いつものように膝の上に抱かれたあとは

彬がどんなに私を好きかってことを
甘い口付けとともに聞かされた