「さぁ着いた」


「何、此処」


繁華街の奥に建つ、レンガ造りのオシャレな建物は
見ているだけで気後れするような雰囲気を出していた

彬に手を引かれて入ったそこは
毛足の長いカーペットが特徴の一見するとバーの様

薄暗い店内にはジャズが流れていて
広いフロアの中央にはスポットライトで浮かび上がるグランドピアノ

半個室のようなボックス席と
丸い造りのカウンター

入り口にセキュリティが立っているところを考えても
会員制と名のつく店の様だ


「俺の大学の同期がやってるバーだよ
いつもは竹田と来ている」


高校生には場違いな大人の世界に
浮き足立つ気持ちは抑えられそうもなかった

彬は迷いなくカウンターに座ると
遅れて入ってきた綺麗な女性が中から挨拶をしてくれた


「はじめまして。ママの玲奈《れな》よ、よろしくね」


ロングのストレートヘアと切長の目が特徴のママは
握手を交わすと妖艶に微笑んだ


「彬、紹介してよ」


「俺の彼女の“みよ”だ」


「彬に勿体ないくらい可愛いんだけど」


「ありがとうございます」


「彼ね、うちの店に女の子を連れて来たことないのよ」


「良いよ俺の話は」


「彬はいつもので良いわね
みよちゃんは?お酒飲めるかな?」


「みよは飲めないから何かジュースを」


玲奈さんと彬のやり取りを聞きながら
ふと頭を過ったのは二人の関係で

その思いが態度に出ていたのか


「どうした?」
彬は頭の上に手を置いた


「やだやだ、彬が甘いとか考えられんない」


「え」


玲奈さんの言葉の意味が分からなくて視線を向ければ


「モテるけど、特定の彼女なんて居た試しがないからね
ヤリ捨ての鬼畜男って有名よ?」


・・・ヤリ捨ての鬼畜男


「おい、玲奈!」


彬は怒っているけれど
私には甘い顔しか見せたことがないから想像すら出来なかった


「ごめんね、みよちゃん」


両手を合わせて片目を閉じた顔は綺麗で


「綺麗」そのまま口から出ていた


「玲奈、みよが綺麗だって
良かったな」


・・・ん?良かったな?
良いに決まってる
その疑問の答えは衝撃だった


「みよ、玲奈は男だ」


「・・・・・・は?」


「本当よ、でもバラすことないのに
気が利かない男は嫌われるわよ!」


初めて会った彬の“友達”は綺麗でお茶目で素敵

目の前で搾られたグレープフルーツジュースも美味しくて自然と笑顔になっていた