清掃に入る時間は他の店も同じらしく
どの店も換気のために開口部を開け放したままするようで
初めこそ警戒もしていたけれど、それも薄れて同じように掃除をするようになった

そんなある日、いつものように掃除機をかけていると
通路の灯りが遮られたと感じた途端
店の入り口から大きな人影が店内に伸びてきた


「キャァァ」


驚きに顔を上げると通路の灯りを背に受けたまま店内に入ってきたのは


スーツ姿のおじさんだった


いや、おじさんと呼ぶには
若すぎる・・・けど。おじさんでいいか

二十代前半に見える男性は一度微笑むと口を開いた


「高校生が、制服でバイトか?」


無意識のうちに警戒して掃除機を握りしめたけれど

微笑んだ表情に少し肩の力が抜けた


「いや、あの・・・えっと
ここ、叔母の店なんです」


「ん?祥子ママの身内ってことか?」


「・・・はい」


「警戒しなくても、怪しい者じゃない
それに、此処はうちのビルだから」


「・・・ハァ」


ビルのオーナーでおじさんなんて興味も唆らない

この話は終わりとばかりに視線を外して掃除を再開した


・・・なに


明らかな拒絶反応にも打たれ強いのか
おじさんは全く動く様子を見せず


結局、掃除を終えるまで入り口に立ったままだった

痛いほど感じる視線には無反応を決めていたのに


「お疲れ、良かったら
ご飯に行かないか?」


掃除機の音が止んだ途端に誘いを受けた

反応薄の女子高生を相手に全くメゲない鬼メンタルのおじさんの誘い


全然魅力的でもないはずなのに


・・・どうしよう


これまで同年代としか遊んで来なかった現実は“大人”の彼の誘いを断る理由を探していた


「「失礼します」」


返事に困っているうちに新たにスーツ姿の男性が二人入ってきて

おじさんと話すと入り口の脇に狛犬みたいに並んで立った


・・・なに?

    
三人とも高身長で威圧感がある


その威圧感に迷いが消えた


「出て行ってもらえます?」


「ん?」
「「なに?」」


驚いたおじさんに対して、狛犬は牙を剥くように鋭い視線を向けてきた


・・・は?なんなの?


生来の負けん気の強さが
あと先を考える余裕を消した


「女子高生一人に大人が三人って
どう考えてもあり得ないし」


なんならウザいんだけど、と続けようとした口は


「お嬢、ごめんな、下で待ってるよ」


おじさんが二人を制して店を出てしまったことで閉じるしかなかった