今度は違う部屋の前に着くと中から声が聞こえてきた


「どうぞ」


開けられた引き戸の向こうに両親が見えた


「お父さんっ」


彬と繋いでいた手を離して父の元に駆け寄る


「みよ・・・」
「みよちゃん、大丈夫」


父を遮って話しかけてきたのは母だった


「大丈夫な訳ないでしょ」


「・・・え」


驚く母より、父に頬を見せた


「なんて奴なんだ」


そっと頬に触れて、一瞬怒りを露わにした父も
「怖かっただろう」と頭を撫でてくれた


両親の間の空いた座布団に座ると
父に再度「大丈夫か」と聞かれた


「ソファーに倒れるほどの衝撃だったんだからね」


「しかし、女、子供に手をあげるような男には見えなかったんだが」


「・・・私も怒らせるような事言っちゃったんだけど」


「それは、どういうことだ?」


「えっと・・・確か、取引に釘を刺すために誘拐したって聞いたから
馬鹿男の姑息な考え・・・みたいなこと」


「「「・・・え」」」


部屋に居る全員が一瞬、鳩豆顔で固まり
そこから一気に吹き出した


「ちょっと、なに?
痛い思いをしたんだから笑わないで」


頬を膨らませると、彬のお父さんが
目尻を涙を拭きながら口を開いた


「しかし、愉快な娘さんですな
儂の記憶では小学生だった気がするが」


「確かに、その頃に一度お会いしたかもしれません
怖いもの知らずの世間知らず、長女と違って負けん気が強いので、親としては目が離せません」


世間知らずとまで言われるとは思わず
恥ずかしくて俯いた


「仕事の話ですが」と背筋を伸ばして始まった彬のお父さんの話は


「今回の重見土地開発への処分は協会でも審議に入りますが
山下さんの娘さんを誘拐した事からして除名は免れないかもしれない
駅前開発ビルの配分没収は了承済みで
山下さんは現行通り六割、うちが三割、残りの一割を三社で分けることになりました」


誘拐の顛末について父に説明する
テーブルの上には契約書が並べられ
付箋が付いた箇所の説明を受けていた


「現行通りならば異論はありません」


そう言った父も家とは違う顔つきだった


「さぁ、この話は終わり
食事にしましょうか」


一転、和やかな雰囲気になったところで料理が運ばれてきた

目にも鮮やかな和食なのに、彬とのことがバレないかを考えるだけで
なんだか味が分からなかった

その心配は
デザートのあんみつを食べている最中にやってきた


「ところで、うちの娘が誘拐されて
どうしてこちらに連絡が?」


上手く誤魔化してくれるはずの彬のお父さんに念を送ってみるものの


「うちの息子と付き合ってるそうです」


なんの配慮もないネタバレに
私の肩が落ちた両隣で
両親の背筋が一気に伸びた