「お嬢ちゃん、すまなかった」
唐突に頭を下げた男性は「彬の父だ」と名乗ったあと
「痛い思いをさせて、すまない」
と、もう一度頭を下げた
「山下さんの娘さんと聞いたが
倅と付き合っているとは知らなかった」
続いて聞かされたのは
中央駅前に建設中の駅前開発ビルに絡む誘拐だったという話で
「無傷で助け出すことができずに申し訳なかった」
何度も頭を下げて
「随分怖い思いをさせたはず
この通り、儂に免じて許して欲しい』
更に深く頭を下げた
だからと言って簡単に許せるものではない
「生まれて初めて男の人に頬を叩かれました
親にも手をあげられたことはありません
儂に免じて、と言われても
私はあなたを知りませんから、許す材料にはなりません
それに、息子さんの彼女になると決めた訳ではありません」
黙って聞いていたお父さんは
「クッ、ハハハ」
大声で笑い始めた
「何か可笑しなことを言いましたか?」
「いや、いや、すまない
高校生と聞いたが、中々ハッキリしたお嬢さんだ
物怖じしないことは良いことだ
ただ、今回のことは
この取引の要を握ってるのが山下社長だから、知らせない訳にはいかない」
「ちょっと、待って下さい
私、おじさんと会っていることは秘密なんです」
慌て過ぎて“おじさん”と口走ったことには気づかなかった
「おじさん?お前、おじさんて呼ばれとるのか
お嬢ちゃん、秘密でなくなるのは仕方ないが、上手く話すから儂に任せてはくれんか?」
それを指摘されて黙り込むのは彬だった
「・・・分かり、ました」
面倒でも、他に選択肢は無い
「家内を呼んでくれ」
狛犬が立ち上がって部屋を出た
暫くすると、お父さんと同じように和服姿の小柄な女性が現れた
黒髪を綺麗に結い上げたその顔は
彬によく似ている
簡単に説明を聞いたお母さんは丁寧に頭を下げた
「ごめんなさいね
この子のせいで」
「・・・いいえ」
そう答えるしかない
暫く三人で話をし
ご飯を食べて帰ることになり
用意ができるまでの間、彬の部屋で待つことになった
ずっと黙ったままの彬に連れられて入ったのは二階の彬の部屋で
マンションと違って畳の良い香りがする
ベッドはあるけれど、生活感の無さに疑問が口から出た
「この部屋に帰ることあるの?」
「ないな」
ソファもないから、ベッドに腰掛けると腕の中に閉じ込められた
「みよ」
「ん?」
「まだ俺の彼女になれない?
親父の前で否定された時、ダメなんじゃないかって不安になった」
「それでずっと黙ってたの?」
ゆっくりと頷く自信無さげな顔に
少し胸が騒ついた



