「加寿ちゃんは彼氏と会いたいなら同窓会キャンセルしていいから」


上手く気持ちがコントロールできなくて
キツイ言い方をしてしまった


「そんなに怒らなくてもいいじゃん」


眉を下げて竹田さんとの通話に戻った加寿ちゃんは


「え?何?・・・あれ?切れちゃった」


携帯電話を見つめて固まった

私とのやり取りの間に、どうやら通話が切れていたらしい

加寿ちゃんが何度かけ直しても
竹田さんの電源は入ることはなかった


「とりあえず同窓会に行こっか」


彼女のペースはいつも予測不能だけとど、憎めない


「久々楽しもうね」


「うん」


苛立ちの所為で彬を避けた結果

週末まで父に学校の送迎を頼んだ私は
携帯電話もサイレントのまま過ごした

同窓会当日は迎えに来てくれた加寿ちゃんと出掛けた


近くにあるビュッフェスタイルの店が今回の会場らしく

中学三年生のクラスだけのプチ同窓会に
集まったのは半数の二十名ほどだった


会った途端に三年前に戻る関係は唯一無二
あっという間にお喋りに花が咲いた


中学の話から大学受験の話に移り変わると
私と加寿ちゃんは途中から聖愛のエスカレーターに乗ったから
学部選択の為の試験のみで皆とは少し違う

それを羨ましいと言われ続けた


楽しい二時間はあっという間に終わり
二次会のカラオケの前にメイクを直そうとお手洗いへ行く途中
通路で勝也とバッタリ出くわした

「みよ」

何を話して良いのか分からず、作り笑いだけで通り過ぎようとしたら腕を掴まれた


「お前、もう彼氏出来たんだな」


「・・・え」


「俺はまだお前を忘れてないのに
あっさりしたもんだな」


返事に困っていると誰かが来る気配がして
勝也が私を引き寄せた


「邪魔だ」


厳つい顔のおじさんに肩に力が入る

・・・っ

その威圧感に勝也の腕が緩んだ

その隙に身体は動いていて
勝也から距離を取るようにトイレへ向かった


何もなかった頃には戻れないけれど

勝也とはこれから先も同級生として会いたい

それにはもう少し時間が必要に思えた


二次会のカラオケはパーティールームで
やたら広い部屋に一気にみんなが騒ぎだした


「ちょっとトイレ」


奈緒美ちゃんが腰を上げるのに便乗する

髪を直したくて先に出てもらうと
通路でスーツ姿の男達に囲まれた


「・・・っ」


一瞬狛犬かと思ったけれど視線を動かしてみても知らない顔しかいない


「何ですか?退いて下さい」


威圧感しかない集団に負けないように声をかけるけれど

「お嬢ちゃんって青野の彼女?」


返ってきたのはこれだけだった


彬の名前が出て驚くと同時に
さっきの店で見た厳つい顔も見つけた

・・・つけられてた?

少し震える手を抑えながら


「違います。人違いです」


この場を抜け出すチャンスを窺う


「残念、お嬢ちゃん。人違いじゃないのは分かってる
騒ぐと身のためにならんぞ、連れてけ」


「・・・っ」


口にタオルを当てられ声を上げる術を失くした私は
男達に囲まれたまま店から連れ出され、箱バンに乗せられた