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誠愛女学院高等部
ミッションスクールの終業は
綺麗なオルゴールの音色が知らせる




「「「「ごきげんよう」」」」



シスターにお辞儀を済ませるとスクールバッグを肩にかけた


「みよちゃん今日もバイト?」


前の席から振り返るのは幼稚園からの幼馴染
平田加寿《ひらたかず》ちゃん


「うん、そうだよ」


「そっか、じゃあ、あたしデートだから」


加寿ちゃんは低い位置で手を振ると教室から駆けて行った


・・・さて、帰ろっ



誠愛女学院高等部
3A 山下みよ


今時古いタイプの名札を外し
ブレザーの胸ポケットに落とすとマフラーを巻いた

誠愛女学院は街の中心部に位置する現存天守閣で有名な城山公園の中腹にある

校舎はもちろん体育館やクラブハウスに至るまで
全て傾斜を利用しているため

入学当初は苦痛だった坂道も
三年生になった今ではそれも苦にならなくなった


「「バイバーイ」」


大門を出ると大通りまでは約二百メートル

少し広めの歩道が設けられたこの道は、城山公園や神社への遊歩道になっていることもあり
アーケードこそないものの、道の両側に土産物屋さんやショップが並ぶ活気のある通りで、食べ歩きでも有名なスポット


中央駅を中心に東西に二キロほど伸びる大通りにはこの街のトレンドが多く集まっていて

西側には父が経営する不動産会社のNEXTOPがある

父の会社に用がない限りは電車通学のために大通りを東へ向かう


駅までの徒歩十分は中心地と呼ぶに相応しい街並みを見ているだけで、あっという間に過ぎるから、そこもお気に入りのひとつ


三年生に進級してから、父の妹である祥子ママが経営する店でアルバイトを始めた


“アルバイト”なんて云えば聞こえは良いけれど

実情は・・・

繁華街の入り口近くにある会員制クラブの開店前に

手早く掃除機をかけ
テーブルを拭くだけのお気楽なもの

それも、友達との約束のない平日のみという不定期にもかかわらず
仕事に見合わない額を報酬として頂く


アルバイトという名の甘い“お小遣い”だ