目を覚ましたのは自分の部屋


「・・・ん?」


確か・・・スーパーマーケットで加寿ちゃんを待っていて

それからどうしたんだっけ?

身体を起こすと制服を着たままで、益々謎ばかり

記憶のない時間を加寿ちゃんに聞くためにポケットから携帯電話を取り出した


「・・・うそ」


表示された日付は加寿ちゃんと待ち合わせをした日の翌日だった


(みよちゃん平気なの?)


学校は熱で休みになっていたと
心配そうな声の加寿ちゃんに丸一日寝ていたことを告げると

スーパーマーケットのベンチで寝落ちしたこと
お酒の匂いがしたこと
たまたま買い物に来ていた隣のおばさんに頼んで送ってもらったことを話してくれた


彬に貰ったチョコレートの所為で酔ったのだろうか

ズル休みのバチが当たったのか
本当に熱が出て寝込むことになった

その間、彬からの着信とメールの数は
想像を越え
鳴らなくても表示され続けるそれに気付いた加寿ちゃんには

黙っていられなくなった


「実はね・・・」


最後まで聞いた加寿ちゃんはお試しの付き合いより狛犬の話に食いついた


熱が下がってからも余分に休んだ所為で、五日ぶりの登校はお友達や先生に心配されただけで終わり

放課後、加寿ちゃんとの約束がようやく実現した
 

中央駅の近くのバーガーショップ

大通りを眺められる二階席の窓際に座ると直ぐ根を下ろした


「今度こそは別れるの」


加寿ちゃんが聞いて欲しかったのは彼氏の話


「別れられそう?」


「なにかあれば警察に駆け込むつもり」


「・・・」


中学の同級生の彼氏は過度な束縛を強いてきて
思い悩む様子を見るだけで深刻さが窺える

相槌を打ちながら何気なく視線を落とした先に見えた人物に目を見開いた


「なに?」


それにすぐ反応する加寿ちゃんに


「あれ」


バッグを窓際に置いて隙間から歩道を指差す


「あの三人?」


「そう」


人波の中、一際目立つスーツ姿の三人を加寿ちゃんの目が捉える


更には余計なものまで見えてしまった

前後を挟む狛犬と
その間に彬と、女


「・・・え、待って。女連れてるじゃん」


同じように気付いた加寿ちゃんは食い気味に窓に張り付いた


「でも、あのケバさはキャバ嬢とかじゃない?」


加寿ちゃんの言うように
メイクも服も派手な女が彬の腕にぶら下がるように密着している


・・・なんなの


女がいるという現実に
強く支配するのは胸を騒つかせるほどの苛立ち


「同伴ってこんな夕方からだっけ
まだ四時だけど」


「・・・」確かに


「同伴に見せかけた浮気じゃない?
いいの?放っておいて」


「良いよ。だってこれで浮気確定
お試しも終わりでしょ?清々するじゃん」


「うそだね
清々するなら、なんで
そんなに不機嫌になるの?」


意地になって顔を上げる私は
どうやら顔に出ているらしい


「好きじゃなければ浮気されても良いの?
これで終わりで本当に良いの?」


「・・・良くない」


「そうだよ。大人と付き合ってるからって
我慢するのは違うと思うよ」


「・・・うん」


「裏を返せば彬さんを意識し始めてるってことだもんね」


「・・・」


そうなのだろうか



曖昧な苛立ちの理由を
さっきの彬の残像が揺らした