おじさんフラグが二本立ちました



「・・・え」


「はい到着〜」


驚く間も無くエレベーターの中から連れ出された


「マジ」


更には最上階に扉がひとつしかないことに固まった


ラグジュアリーな空間に洗練されたデザインの門扉

それを入るとため息の出るような空間が広がっていた


「散財?」


「・・・ん、そうでもない、かな」


生体認証で解除された玄関扉の中は


スカートの中まで映してしまいそうな石のタイルと間接照明のお洒落な空間


二人が並んで歩いても余裕の廊下に感心しているうちに


「・・・っ」


着いたリビングルームの広さに息を飲んだ


「凄〜い」


大きな窓に駆け寄ると
繁華街が見渡せた


「気に入った?」


「うん」


「他の部屋も案内したいけど」


「よろしくお願いしま〜す」


3LDKとはいえ、一つ一つが大きくて完璧な間取りに賃貸物件との差を見せつけられた気がした


ダイニングキッチンとリビングルームは
普段は扉で仕切られているけれど
壁面に扉を収納することで
大きな空間にもできるらしい


「此処」


開かれた扉の中は十畳ほどの部屋だった


「明るくて良いね」


「東南角部屋は美人を作るんだ」


「へぇ」


「だからみよちゃんの部屋」


「・・・私?」


「いつでも此処に来て欲しいんだ、なんなら此処から大学へも近い」


「・・・確かに」


アルバイトをしている父の会社はレガーメに移転しているし

大学までも徒歩十分

アクセスの良さよりも、ずっと胸の中で燻っている姉の同居の問題に

後先を考える余裕なんて残っていなくて


「父に相談してみる」


答えを出すのは直ぐだった


「俺も一緒にお願いに行くからね」


「うん」


リビングルームを挟んだ反対側にもう一つある部屋は院長の部屋で


三つ目の部屋は大型ウォークインクローゼットを備えた寝室だった


「てか、何にもないね」


「みよちゃんに選んで欲しいな」


「・・・え、良いの?」


「俺が決めると、また殺風景になるからさ」


「・・・楽しみ」


「じゃあ、ランチに出掛けますか」


「はい」


全ての部屋の写真を撮ってから、手を繋いで駅ビルへと向かった


「・・・え」


てっきりフード街だと思っていたのに
駅ビルをすり抜けてホテルに入ったところで隣を歩く院長に視線を向けた


私が見ていることに気付いているはずの院長は、繋いだ手を振りながら鼻歌でも出そうな雰囲気で

景色の眺められるイタリアンかもしれないと特段追求することはやめた


「見晴らし良いね」


「・・・うん」


予想通り、景色の良いイタリアンに入ったけれど


【本日貸切】


重々しい札が立った脇をすり抜けて通されたのは
広いフロアにひとつだけの、スポットライトを浴びた席だった


その意図を探っているだけで、堪能したいランチは味がしなかった


甘いドルチェが終わったあと
私の手を引いて「景色を見よう」と窓際に立った院長は


「いつも指輪をつけてくれてありがとう」


薬指に収まる石に口付けた



「この指輪の意味は“永遠の愛”なんだ」


「・・・うん」


それは指輪を調べたことで気付いていた


それでも、肌身離さずつけているのは自分の意志で

気持ちの安定剤にもなっているコレを外す日は来ないと思う


「渡した日に伝えた言葉は回りくどくて伝わっていなかったと思うんだ」


「回りくどい?」


だから、と区切った院長は跪いた


「山下みよさん。僕と結婚してください」


「・・・っ」


まだ大学生になったばかりの十八歳で
なにもできない小娘なのに・・・

私を見つめる院長の表情がいつもと変わらず甘く優しくて


色々、言い訳をする頭の中が消えた


「みよね、なにもできないの」


「知ってる」


「いつになったらできるとか
全然言えないんだけど」


「うん」


「進さんと一緒なら頑張れそうな気がする」


「女の子はできるけどできない振りが可愛いんだ」


いつだって私のことを理解してくれる院長になら
長い人生託しても良いって思えた


「よろしくお願いします」


「ありがとう」


サッと立ち上がった院長は窓際に不自然に置かれていたテーブルの下から薔薇の花束を抜き取ると


「幸せになろうね」


甘いキスをくれた