[今日はランチに誘える?]


せっかくゼミのお休みがメールで届いたのに
加寿ちゃんからは美容室の予約が取れたとメッセージが入った

ということは、完全フリーの友達がいない

そこに院長のメッセージを受信するって

どこかにカメラ・・・フフ

吹き出したところで


[みよちゃん]


未だ未読のそれに追加が入った

  [いつでも暇だと思われてる]

挨拶でも返事でもないそれを送った途端
着信画面に切り替わった


「もしもし」

(おはよう、みよちゃん)

「おはよう」

(今日忙しい?)

「知ってるんでしょう?」

(え、なに、聞いたっけ?
え・・・本当覚えてないんだけど)

「嘘嘘、タイミング良かったから
みよの予定全部透視できるかと思っちゃった」

(透視できたら、こんなに苦労してないんだけどなぁ)

「透視されてたら即別れるんだから」

(モォォォ、怖いことしか言わない)


院長とのお喋りは大概が脱線傾向にあって
いくらでも話していられる


「で、何の電話なの?」

(あ、ごめんね、ランチに誘えるかなって思ってメッセージ送ったんだけど)

「ランチだけ?」


朝食の言い逃げもあるから家には居たくない


(てことは、みよちゃん予定が空いてる?)

「うん。ガラ空き」

(良いこと聞いちゃった〜
じゃあこれから迎えに行くよ)

「待ってるね」






あっという間に迎えに来た院長の助手席に収まって

流れる景色は中央駅向き


柴崎総合病院は中央駅の東側、徒歩十分という好立地

その更に東側に院長の住むマンションがある

西側で育った私からすれば毎回楽しい


「ランチの前に寄りたいところができたんだ」


「寄りたいところ?」


「駅裏にマンション建ったの知ってるでしょ?」


「うん」


「そっちに引っ越そうかと思ってる」


「内覧ってこと?」


「いや、既に購入済みなんだけど
実際の部屋に入ったことなくてさ
せっかくみよちゃんとデートなら
見晴らしを確かめとこうかと思って」


「分譲マンションに入るの初めてだから、ちょっと楽しくなってきた」


「おっ、じゃあ良いタイミングだね」


「うん」


中心地にありながら駅裏ということで
建物北側に平置き駐車場まで確保しているそこは

全ての入り口にゲートが設置されていて、高いセキュリティと24時間常駐の管理システムを導入している

有難いことに二階のフロントサイドから中央駅まで専用通路で繋がっているから駅まで傘要らず

天守閣のある城山の関係で二十階までという規制にかかったことで

購入はほぼ抽選だったというのも頷ける


「先にみよちゃんの登録ね」


「・・・うんっ」


今のマンションと違って、此処なら
一人で来たとしても待っていられる場所だ


二階のフロントでセキュリティ登録をすると、バッグに入れておくだけというカードを貰った


ワンフロアに二邸なのにエレベーターは二基も設置されていて贅沢さに感心しているうちに


【20】


パネルに表示されたのは最上階だった