「みよ、車がディーラーに入ったって連絡あったぞ」


「うそっ」


朝食を食べている途中、父から聞かされた朗報に気分が上がった


「あと二週間くらいだろ」


「え、そんなにかかるの?」


「みよがディーラーオプション山ほどつけるからだろ」


「フフ」


そこは譲れなかった


「それより」


「ん?」


「レガーメの四階の一等地、閉まったままだけど貸し出しませんかって問い合わせしか来てない」


「・・・っ、そうだよね」


「内装を拘った割に使わないとか
うちの姫は気まぐれで困る」


「使うわよ、そのうち
気まぐれはみよの専売特許だからね」


「はいはい」


父と私の会話を隣の席で黙って聞いている母と姉


六月に土居さんと結婚する姉は
この家で同居を考えているらしく

その話をされてから口を聞いていない


三月の末に大々的にオープンした複合型商業ビル、レガーメ

地権者として大きな力を持つ父の会社は一階に店舗を構えることになった


そこで抽選会の前にお願いしたのはスペースの先取りだった

何にも使えそうな約五十平米程のスペースは“いつか”起業するつもりの謂わば見切り発車確保だった

今のところ何も決まっていないけれど
オープンに合わせて内装に力を入れ
巨大な吹き抜けを眺められる四階を陣取ったのは先月のこと


大通りを見下ろせる最高値物件を遊ばせているのだから

父の渋い顔も仕方ないかもしれない


さて、そろそろ本題


「ところで、えりと土居さんが此処で同居って
えりの部屋で生活する訳?」


この街で人気の住宅地の
メインストリートの突き当たりの我が家は

数軒分の区画を購入したとかで
他の家より敷地は広いと思う


けれども家としては一般的なものだから
余分は私が小学生の頃まで使っていた部屋しかない


「・・・えっと」


突然話題を振られて口篭るえりと
えりの向かいで瞬きだけを繰り返す母

私の予感が合っているなら
部屋の交換を言われそう


「なに、言えないの?」


いつまで経っても口を開かない様子に
責めるような口調になるのは仕方ない


こういう性格も私とは全然違うと言える


「みよ、あのな」


結局、言い出せないえりに代わって
その役を引き受けたのは父だった


「みよが子供の頃に使っていた部屋を
えりと土居に使わせようと思ってる」


・・・意外


今の部屋と合わせて新婚夫婦が使うってこと・・・


「嫌なんだけど」


「「え」」
「どうしてだ?」


「だって、えりと結婚するって言ったって
若い男の人が家の中、しかも数歩の距離にいるって嫌じゃない?」


「ま、それは」


「なんで結婚すると同時に同居なの?
普通しばらくは二人で生活したいもんじゃないの?」


私にとってみれば単なる疑問でも
えりにとっては不満をぶつけられたように思えたのか

何も言わないまま俯いてしまった


「お父さん。みよ一人暮らしする」


「「「え」」」


「同居する姉夫婦と同じ階とか無理だから
じゃあ、ご馳走様」


言いたいことを言って席を立った私を
呼び止める人はいなかった