side 柴崎進



ーーーーー完敗



潔く負けを認めるのは初めてだけど
愛しい彼女になら

それもいいと思えた









腕の中で眠っている彼女のオデコに口付けて
髪を撫でているだけで、ほんの少し彼女の口元が笑った気がして幸せな気分になった


彬の姉貴に言われたお試し期間は
今日、バレンタインで終わった


正直、たった一ヶ月で彼女の気持ちを貰えるとは思っていなくて


ただ、毎日真っ直ぐ彼女に向き合うことしかできなかった


彼女のお父さんから聞かされたお母さんとの過去も
彼女の掴みどころのない猫みたいな性格も
飴と鞭、1:9のツンデレ発動も
彼女との毎日は俺の胸に強く響いてきて存在感を残す


初めての彼女は初めての想いも痛みも教えてくれる俺にとっての先生で

毎日、毎日がむしゃらになった


理性を総動員して頑張った一ヶ月も
今日の告白を聞いた途端


もう抑えが効かなかった


「す、すむ、さんっ、ぁ」


彼女に呼ばれる自分の名前が好きだ


甘い甘い蜜のような、きめ細かな肌に触れるだけで
どうしようもなく自分の色に染めてしまいたい欲望だけが溢れてきて

結局、手加減もなしに三度も抱いてしまった

心も身体も手に入れたはずなのに
俺の心に残ったのは不安だけ


消えるかに思えたそれは


甘い時間を過ごしたことで
自分の気持ちを膨れ上がらせただけだった

正式な彼女になったのに
いつか離れていくんじゃないかって

取り越し苦労・・・

三十男の焦り・・・

否定しないな


俺はこれから先もこうやって
彼女を追いかけ続けるんだと思う


「・・・ん」


「起きた?」


「眠いの」


「あぁ、もう少し寝て良いよ」


「うん」


愛しい彼女の髪に口付けて
その華奢な身体を隙間なく抱き寄せる


トン、トンとリズム良く背中に触れているだけで彼女がまた眠りに落ちた


本当は帰したくない

彼女のお父さんからも許可をもらっているけど


大学生になるまでは
大人のフリをすることにしたんだ



落ちた恋は劇的で


俺は何度でも彼女に敗北するんだと思う


でもその度に二人の思い出ができるのなら


今日の完敗も無駄にはならない




大好きなみよちゃん



今日のリング


婚約指輪だよって言ったら


君はどんな顔をするのかな




それも、次のお楽しみ





fin