「・・・ちゃん、みよちゃん」


微睡から目を開けるとベッドに腰掛けている院長が見えた


反射的に小窓に目をやると夕方の空だった


「気分はどう?」


「・・・ん、頭は、良い感じ」


「他も大丈夫そう?」


「うん。腕も特に痛みとか、ないよ」


「まだ鎮痛剤の効果中だからなんとも言えないけど
もう俺帰れるからさ、みよちゃんと一度お父さんの会社に寄って
それから、久しぶりに手料理を振る舞おうと思ってるけど、どうかな」


「・・・進さんが料理するの?」


「うん。約束しただけで
ちゃんとした食事は作ったことなかったでしょ」


「じゃあいただく」


「嘘」


「え?」 


「本当は今日、あんなことがあったから、もう少しみよちゃんと居たいんだ
だからご飯を振る舞うって卑怯者の考え」


「言わなきゃ分かんないのに」


「でも、カッコいい俺もカッコ悪い俺も知って欲しいんだ」


真っ直ぐな院長の気持ちを聞かされるだけで
何度ドキドキさせられるんだろう

だから・・・


「みよも進さんともっと一緒に居たい」


素直になれるんだと思う


もちろん


「モォォォ、みよちゃんって狡いよね」


「素直なだけだって」


「飴と鞭、ツンとデレ
俺の彼女は天然小悪魔人たらし」


「フフッ、なにそれ」


「モォォォなんでも良い
みよちゃんと一緒に居たい」


少し頬を膨らませた院長も
口を尖らせた院長も


全部好き


憧れた大人の付き合いは
これまでと何が違うのかも分からないまま


無理して背伸びをするより


今のままで良いと言ってくれる院長がいるから


私は私らしく、私のままで



「ねぇ」


「ん?」


「もう雑誌発売の影響凄いんだよ」


「どういうこと?」


「SNSにイイね半端ない」


「・・・っ!まさか」


「そりゃ、みよと加寿ちゃんのページ
丸ごとアップしちゃったもん」


「モォォォ」


「進さん可愛い」


「敵は此処にいた」


「え、進さんのフラグ回収したんだけど
手放す方が良〜い?」


「ほら、天然小悪魔人たらし
もう俺を脅しにかかってるよ」


「まだお試し中だけど」


「もう、お試しじゃないからっ!
ちゃんと『好き』って聞いた」


「はいはい、声が大きいよ?」


「あ、ごめんね」


「仕方がないねぇ」


「「フハハ」」


くだらないやり取りに笑っているうちに


気持ちを落ち着かせる天才は


私を膝の上に抱っこして髪を撫でてくれていた


私を見つめるその瞳が
優しさに溢れていて


またひとつ幸せだなって思った



「ところで何のフラグ?」


「え?おじさんだよ」


「モォォォ」


「「ブッ」」






fin