(大丈夫なのか?怪我は?)


鍋焼きうどんを食べている途中でかかってきた父からの電話は彬との一件を指していた


「なんで?」

(ホテルから電話があった)

「えっと、」


向かいで聞いていた院長が手を出すから、そのまま携帯電話を乗せた


「もしもしお電話を代わりました柴崎です」


まさかホテル側が連絡するとは思わなかったけれど
駅前開発ビルの会合は全てあのホテルで仕切っているから
支配人は父の知り合いでもある

加えて、院長が湿布を貰ったことからしてあり得ない話ではなかったのだ


話し終えて戻ってきた携帯電話をバッグに入れる


「支配人が連絡したらしいよ」


「やっぱり」


「本当は小競り合いも仲裁に入ろうかと悩んだらしい」


聞かされた裏側に事の大きさを知った


「彬のことも、お父さん結構怒ってたから抗議はすると思うよ」


「そっか」


そこは庇い立てをしない方が良い


「なんか、昨日も今日も心臓を酷使し過ぎて
老化が早まってきた気がするよ」


「ううん。進さんは今日も可愛い」


「可愛いのはみよちゃん」


「知ってる」


「ハハハ
俺の彼女は俺の寿命を縮める天才だ」


「穏やかな地味子を選べば解決するわよ?」


「する訳ないこと知ってる癖に」


「フフ」


心も身体も温まったあとは、院長と病院へ向かった


「お父さんには伝えてるからね」


「うちの父って進さんに甘いよね」


「俺さ、医者になって良かったと思ったのこれだけ」


「フフ」


いつものように夜間入り口を通って院長室へ入った


院内携帯で電話をした院長とソファで待っていると


コンコン
「失礼します」


看護師長さんが私の名前の入った薬袋を持って来た


「大丈夫?」


「進さんが大袈裟なだけ」


「院長は昨日も今日も慌ててますよ」


「知ってる」


「「フフフ」」


「ほら俺のカッコ悪いところがバレた」


「院長はいつでもカッコいいです
じゃあ私はこれで」


「ありがとう」
「ありがとうございます」


看護師長さんが出て行ったあと


「みよちゃんはお薬を飲んでね」


鎮痛剤を一錠出してくれた


「みよちゃんが此処で寝てくれたら
俺は仕事も出来て、みよちゃんにも会える
凄い幸せなんだけど」


こんなことを幸せと思ってくれる院長と笑って隣の隠し部屋に入った


「なんだかもう眠い」


「このベッド、寝心地に拘ったからね」


「フフ」


院長がクローゼットの扉を開けて取り出した大きな紙袋には
大好きなブランドのモコモコパジャマが入っていた


「新しいの買ってくれたの?」


「みよちゃんの居心地のためなら
恥ずかしくなかった」


ということはあの店に院長一人で行ったということ


「彼氏がナンパされなかったか心配」


「生憎一途に想う彼女が居るので
世界中の女性はひょっとこにしか見えません」


「「ブッ」」


「じゃあ、着替えてゆっくりしてね」


「うん。ありがとう」


気を利かせて隠し部屋を出て行った院長


パーカーとショートパンツのセットアップに着替えて
ウォーターベッドに寝転ぶと、ヒーターが程よく温まっていて


院長におやすみスタンプを送って目蓋を閉じた