そして
「もしもし、あ?あぁ、クッ」


私の電話に勝手に出て勝手に切った


「この後時間あるか」


「ない」


「学校は行かなくて良いし、恋人募集中だろ」


「馬鹿にしてんの」


そうだった・・・
彬との関係はぶつかり合う激情型


今なら、喧嘩できるほど仲が良い訳じゃないと理解できる


「みよ、コーヒー好きだろ
ほら、あの二階で少しだけ話しよう」


強く腕を引かれて広いホールを引き摺られるように歩く


強引な彬が良いと思ったのがいつのことだったのか
思い出そうとするけれど記憶にも残っていなかった


「進とのお試しが終わったらさ
俺のところに戻ってくるだろ」


そんな日・・・来ないと思う


絶望的な状況の中、強く握られた腕が解かれた


「・・・キャ」
「離せっ」


それは、額に汗を滲ませた院長の手だった


「お前、駆けつけるの早くねぇ?」


「彬、横槍いれるなよ」


「お前は横槍入れなかった訳?」


「少なくともこんな強引なことはしていない」


「チッ」


「みよちゃん、大丈夫?」


院長の不安そうな目は私を映している


「調子悪そうだね、無理してた?」


その目が私の変調を探し当ててくれただけで
込み上げてるくる熱いものは止められなかった



「みよちゃん」


スッポリと院長に抱きしめられた身体は、涙の所為だけじゃなくて踏ん張りが効かなかった

優しいと言われる人に何人も会ってきたけれど
本当に優しい人は相手のことを思い遣れる院長みたいな人だと思う

素直に気持ちを認めたからこそ
偽物が分かるようになったんだと思う




「こういうの止めろ」


僅かに聞こえたやり取りで彬の気配が消えたことより
あの瞬間、院長が電話をかけてくれなければ
今頃どうなっていたのだろう・・・


そう考えるだけで
院長との気持ちが繋がったんだと改めて嬉しく思えた


「ほら、もう泣き止んで」


「・・・ん」


「泣いてても可愛いけど
あんまり可愛い顔を他の人に見せたくないんだよな」


「・・・フフ」


ちゃんと笑わせてくれた院長に抱きついたまま


「どうして此処が分かったの?」


「んとね、実はランチに誘おうと
お父さんの会社に寄ったら教えてくれてさ
電話した時は正面に車止めてたんだ」


「・・・ありがと」


「ごめんね、ちょっと出遅れた」


「ううん。ちゃんと助けてくれた」


「ランチに誘う前にフロントに寄るけど良い?」


「ん?」


「腕に痣ができてる」


スーツの袖に隠れて見えていないはずなのに院長はそれを見破った


「・・・っ」


「ホテルは簡単な物なら常備してるから、俺の特権で貰ってくる」


「進さんの特権がなくても貰えそうだけど」


「それを言っちゃ、ナイトの役目がなくなるだろ?」


「はいはい」


「「フハハ」」


高揚していた気持ちが落ち着いて
涙を拭って貰ったところで


ソファに座らされた私は
院長から大袈裟な大きな湿布を貼られた


「不細工なんですけど」


「不細工の方が心配が少なくて済みます」


「「フフ」」


「さぁ、お姫様、お昼は何を食べましょうか」


「えっと」


重い頭を考えるだけでアッサリしたものが良い
それを思い浮かべただけ



「じゃあ、アッサリ鍋焼きうどんのお店にしよう」


「うん」


心地良い院長との時間は
私を甘やかした