ーーーーー翌日



朝から酷い雨だった

空の色に合わせるみたいに頭が重い

そんな日に限って父から仕事に誘われた

全然行きたくないと思っていても
来月には運転免許証も取得できる目処が立った

そのために今は我慢の時と支度をした

頼まれていた入力業務をこなしていると


「ランチのついでにホテルで駅前開発ビルのレセプション用の宿泊チケット買ってきてくれるか」


父はすでにホテル代金を用意していた


たった一キロ程の距離だけど、今日は生憎の雨

仕事中だから院長を足にも出来ないし
断るしかないと思っていれば


「僕、引き渡しがありますから
みよさんをホテル前で降ろしますね」


やり取りを聞いていた土居さんがフォローしてくれた


「土居、悪いな」


「全然大丈夫です」


「なんならみよとランチに行けば良いんじゃないのか」


「あ、と、今日はやめておきます」


「あ、あぁ、そうかそうだよな」


父の気の使えなさに笑った


歩くと十分ほどの距離も車ではあっという間で正面車寄せに到着した

ドアを開いてくれたボーイさんにお礼を言うと土居さんに手を振った

ホテルの斜め向かいには足場の外された駅前開発ビルが[近日オープン]の垂れ幕をかけている


「本日はご宿泊ですか」


小さなバッグしか持たない私にもテンプレートの挨拶がされ


その初々しさに意地悪はやめた


傘を預けて豪華な正面入り口を入るとフロントまで真っ直ぐ伸びる絨毯の上を歩く

天井が高いエントランスホールだけでワクワクするような豪華さは何度来ても楽しい

大きな柱を過ぎると左側にスキップフロアがあり上がカフェになっている

コーヒーの良い香りが漂っていて
何気なく見上げたところで視界に入ったシルエットにため息を吐き出した


一番手前の席に男性二人と狛犬と彬がいた

慌てて目を逸らそうとしたけれど
一瞬こちらを向いた彬と目が合った気がした

どうしよう・・・
頭を過ぎったのはそんなもんで


「いらっしゃいませ」


フロントで迎えてくれた支配人に


「宿泊チケットをお願いしていたNEXTOPです」


それだけを言うと彬の居るカフェに背を向けた


「お待たせしました」


チケットを広げて確認すると持って来たクリアファイルに挟んでバッグに入れた

なるべくカフェを見ないように帰るつもりが
そんな心配は無用で彼らの姿はもう無かった


♪〜


ポケットの中で震え始めた携帯電話を取り出す


院長の名前が見えたからスライドして耳に当てた


「もしもし」

(みよちゃんどこ?)

昨日のデジャヴみたいな院長の様子に「フフ」と笑った瞬間


手から携帯電話が抜き取られ


「・・・っ、」


驚いて見上げた先に彬が立っていた