「みよちゃん」


「ん?」


「飴と鞭」


「うん」


「なんか俺、初めて飴貰った気がした」


「フフ、なんか心外ですけど〜
ま、みよの飴と鞭は1:9だから
強ち間違ってもないんです〜」


「ブッ」


吹き出した院長の腕が少し緩んで


「みよちゃん、ありがとう」


お礼を言った途端、オデコに唇が触れた


「じゃあ、進さんは病院へ帰る?」


「・・・え」


「彼氏が無職とか嫌なんですけど」


「え、もう飴は終わり?」


「そう飴は1だからね」


悪戯に笑って片目を閉じた


「モォォォ」


途端に隙間なく抱きしめられた身体は
院長の胸に頬が打つかった


「ん?」


「そんな可愛い顔、誰にも見せたくないっ
俺、もうどうにかしちゃってる」


「フフフ」


「みよちゃん、好き」


「ん」


「みよちゃんは?」


「・・・」


「俺は大好きだけど」


「・・・フフ」


「まだ伝わんないのかな」


「ううん、ちゃんと伝わってるよ」


「好き、大好き
本当に大好きだよ。みよちゃん」




・・・甘い告白に流されてしまいたい

初めてそう思った


ストレートな告白に応えたいとも思った


「みよちゃんは?」


二回目に聞いた院長の声は僅かに震えているようで


遠慮していた顔を正面に向けた


「・・・っ」


「好き、よ」


「・・・みよ、ちゃん、ホント?」


「・・・うん」


「もう一回言って」


「もう終わり」


「・・・飴終了、残念」






平日とはいえ駅前広場の人通りは多い
その喧騒が聞こえないくらい二人の世界にいた


「クシュン」

「ごめん、冷えたね」


コートで包んでくれていたから
寒さも平気だと思っていたけど

思っていたより寒かったようだ


腕の中から出た途端に目に飛び込んできたのは
真っ白なシャツに移る光るグロスの跡


それに触れながら院長を見上げた


「わざと」


「そっか」


「告白の記念にしてね」


「フハハ、分かった、大事に取っとくよ」


「じゃ、みよ帰るから」


「・・・え、もう鞭?」


「嘘だよ、もう凍えそうだから
風邪ひかせたら損害賠償です」


「オッケー、償います」


止めてあった車に乗り込むと院長は暖房を最大にしてくれた


「シートヒーターがあって良かったよ
じゃなきゃお姫様を凍えさせるところだった」


「大袈裟ね」


「「フフフ」」


初めて“好き”と告げた日


可愛いカフェで甘いパンケーキを食べる私を見ながら


何度も頭を撫でて「可愛い」を連発する院長は

“可愛い”のあとに“みよ”って囁いてた


コッソリだけどね


聞こえてたらコッソリじゃないか


フフ