「あのね」


両手を取って視線を絡めてから始まったのは


「信じて欲しいんだ
喧嘩をしないからって気持ちが足りない訳じゃないよ
むしろ、喧嘩にならないように思い遣る気持ちって
相手のことを想えばこそだよね」


「・・・ん」


院長が穏やかなのは、話し合って解決しようとするからで

気持ちを打つけ合って傷付いたり傷付けたりしない


「俺も初めての彼女だから、手探り状態なのは分かってくれる?」


「鬼畜だったのにね」


「もーそれは忘れて欲しい黒歴史って教えたよ?
三十男が必死になって追いかけたいって頑張ってる自分の姿も
良い恋愛してるって嬉しいんだ」


「そっか」


「心配?」


「・・・んと、」


彬とのことを言おうとして口篭る
それを察してくれた院長は


「彬とのこと?」


話しやすいようにキッカケを出してくれた


「同じ年だから、なにかと比べちゃうの」


「それは仕方ないさ」


「彬は強引だから喧嘩ばかりしてたの
でもその分、分かりやすくもあった
進さんとは穏やか過ぎるから
逆に我慢してるんじゃないかって心配になる」


「お姫様を甘やかすってナイトの役目だよ」


「無理、してないの?」


「してないよ。信じて」


「分かった」


「じゃあ、大急ぎでご飯食べて送るとしますか」


「はい」


少しだけ流れるようになった大通りに出ると
遅くなったからと院長は父に電話を入れていた


「気を使ってないからね?
ほら、今日はみよちゃん怪我したのに
心配してるといけないと思ってさ」


「ありがとう、お父さん」


「コラっ」


「「フフフ」」