歩いても十分程度だけれど
そのあと食事に行くからと車に乗った


父の会社の裏にある専用駐車場に車を止めて歩くこと五十歩


EYマンションのエントランスを入った


十五階建ての建物は南向きのバルコニーが大通りに面していて開放感と見晴らしが良い


玄関のある北側の共用通路からは
城山公園をはじめとする神社や天守閣、聖愛女学院のキャンパスが広がる緑の多い景色を楽しめる最高の立地で

NEXTOPが持つ中でも人気の高い物件だ


従業員のために貸し出しているのは
1LDKの間取りの部屋で

チャイムを押すと
「いらっしゃい」と姉が不安そうな顔で迎えてくれた


引き渡しで何度か違う部屋に入ったことはあるけれど


カウンターキッチンを備えたLDKと寝室がある使い勝手の良い間取りだと思う


ただ、住んでいる状態で入ったことがないから興味津々


リビングルームに通されると
小さなテーブルを囲んで座った


「みよ、怪我大丈夫?」


土居さんと姉の不安気な顔に


「ほら、進さんが大袈裟にするからじゃん」


首筋に貼り付けられたガーゼを見せる


「みよちゃんの白い肌に跡でも残ったら、損害賠償請求するからね」


院長は笑顔で怖いことを言い


「「そうだよ」」


姉も土居さんも賛同した


「モォォ、面倒な三人っ
二十歳を超えると老人的思考になるのね
話が前に進まないから、三人とも黙ってて」


両手で三人を制して


「天野香織《あまのかおり》」
そう口にすると姉と土居さんは顔を見合わせた

二人の顔を交互に見ながら
元カノが店に来たことから詳細に話した

何度も謝る土居さんと隣で泣き出しそうな姉


「もう来ないと思うけど念の為に持っておいてね」


車を止めた時に事務所に入って取って来たクリアファイルを渡した


念書とコピー二枚を見ながら言葉を失っている二人は


「「ありがとう」」

最後はもう一度頭を下げた


安堵から泣き出した姉を抱き寄せる土居さんを見ながら

役に立てたと嬉しくなった


「じゃあ。みよ帰るね」


そう言って立ち上がると


「ご飯食べて行かないの?」


姉からの突然の誘いに驚いた


「えっと、やめとく」


「予定があるの?」


「えりのご飯とか怖くて食べらんない」


「モォォォ!この子は!全く!」


「そうそう、えりはそうやって騒いでいなさいよ」


「・・・みよ」


「じゃあね」


院長と手を繋いで玄関へ向かうと
慌てて追いかけてきた姉は


「本当に付き合ってるんですね」


今更ながらに聞いてきた


「よろしくお願いします、お姉さん」


キラキラの笑顔を振り撒く院長に
免疫の少ない姉は固まった


「・・・っ」


揶揄われたと気付く前に


「「お邪魔しました」」


逃げるように玄関扉を開けた