「みよちゃん」


よほど慌てて来たのか息が上がった院長は
私の姿を確認すると首筋の傷を見て抱きしめた


「公衆の面前ですけど」


「良いんだ」


買い物客の視線を独り占めにした抱擁は直ぐに解かれたけれど

心配されていることが伝わるだけに嬉しい

両肩から荷物を取った院長は
それを軽々と片方にかけて私と手を繋いだ


「心臓が止まった」


「心臓止めすぎじゃない?」


「比喩だからね」


「フフ、お父さんが大袈裟なだけだよ」


「みよちゃんに傷を付けるとか
損害賠償くらいじゃ許せないな」


「心配してくれたの?」


敢えての確認も


「当たり前だよ」


欲しい答えが返ってきた
こうやって、一々確認したいのは
母とのことが原因だと思う


「ありがとう」


「どういたしまして、じゃないよっ」


「はいはい、怒りんぼうの進さん」


「モォォォ、みよちゃんはもっと自分を大事にしてくれなきゃ」


院長の車に乗せられて病院に連行されると、大袈裟なほどの治療を受けた


「仕事中でしょ?」


「怪我人を放っておけないから
看病するために、この後はフリーだよ」


「ダメダメ、進さんは仕事して」


「嫌だ」


「フフ」子供みたいだ


「みよちゃんが此処に居てくれるなら
仕事しても良い」


「なんか、進バブちゃん」


「コラっ」


この後ツボった二人でゲラゲラ笑って
結局、仕事を放置でウォーターベッドでお昼寝をした







「おはよ」


「・・・っ、もしかして夜?」


隠れ部屋にある小窓からは星が見えていた


「てか、誰からも連絡ないって
俺がよっぽどポンコツ経営者ってことかな」


行き着いた答えにまた笑って
ポケットの中の携帯電話を出した


「・・・っ」


院長と違って、サイレントにしたままの私の画面には
着信履歴とメッセージが並んでいた


・・・えりと土居さん


その殆どを占める二人の履歴に
敢えて土居さんの名前をタップした

(みよさんっ)

慌てた土居さんの声の向こう側に姉の声も重なっている


「な〜に?鬼電とか恐怖なんですけどっ」

(怪我のことを社長から聞いて・・
みよさん、大丈夫ですか?」

「あ〜ね、とりあえず手当てしてもらったから平気だよ」

(良かった、えりさんも心配してます)

「お見舞いよろしくって伝えてね」

(それは僕からさせて貰います)

「嘘ウソ、お見舞い貰うほどの怪我じゃないからね
それより、渡したいものがあるんだけど」

(えっと、今は僕の部屋なんです)

「へぇ、じゃあこれからお邪魔するね」

(あ、了解です)



一緒について行くと言う院長と病院から出た