店を出たところで既に元カノの姿は見えなくなっていた


「多分、中央駅」


一か八かの賭けは、当たった

信号待ちの元カノを見つけて近付く

「ちょっといいかな」

声を掛けると一瞬驚いた顔をしたけれど簡単に頷いた

少し店から離れたバス停のベンチに腰掛けると


「あなた、土居さんと一緒に居たよね?」


先に仕掛けられた


「土居さんの元カノが今更何の用?」


「いや・・・あの」
睨んだだけで口篭る元カノを
先手必勝とばかりに攻める


「歩道で見張ってるくらいならまだしも
店に来たってことは宣戦布告よね」


相手の返事を待たずに
攻め込んでいくと

漸く化けの皮を剥がした


「お姉さんと違って怖いね、アンタ」


さっきとは別人のような目つき
フッと鼻で笑った癖に途端に視線を外す弱さ

良くも悪くもなりきれない中途半端な女

相手にもしたくないレベルの低さにも
姉が絡むなら一肌脱ぐしかない


「あんたさ、振っといてストーカーするとか、よっぽど暇なんだね」


呆れたようにクスと笑うと

元カノの息が上がってきた

・・・ほら、もうすぐ
こちらの手の内に入ってくれなきゃ
態々仕掛けた意味がない

勘に障る物言いを数回

嘘ブリッコの元カノは
あっという間に罠に落ちた


「ねぇ!年下のクセに馬鹿にするんじゃないわよっ」


吠えると同時にジャケットの襟を握った女は
力任せに左右に引っ張る

途端に包ボタンの可愛いブラウスの襟元が擦れ

ボタンが弾け飛んだ


「・・・っ」


それだけで我に返った女は
転がり落ちたボタンを拾うと

何度も頭を下げた


「一方的な暴力って警察を呼ぶべきよね」


執拗に左右に引っ張られたことで
襟が首と擦れてヒリヒリするし襟に血が滲んでいる

それを携帯電話のミラーで確認して
「傷害事件だから」と脅してみる


警察を呼ばれるかもしれないことに驚いた女は
土下座をしながら泣き始めた


「ねぇ、皆に見られてるんだけど
逮捕されに行く?それとも
もう二度と土居さんと姉に近付かないって約束する?」


「・・・あの」


「大学二回生で前科がつくとか
可哀想だから許してあげてもいいよ
その代わり・・・」


不本意ながら女の腕を引いて会社に戻ると、裏の駐車場側の入り口から会議室へと入った
サッと作った念書に名前を書かせて、念の為、両手の拇印に学生証のコピーも取って帰らせた


「久々楽しかった〜」


大きく背伸びをしたところで父に呼ばれた


「あのね」


父の用事よりこっちが先だとばかり
首筋の擦り傷を見せながら経緯を説明すると父は驚いて固まった


「その程度の傷で傷害って
相手の女も無知にしても酷いな」


「見るからに頭も弱そうだった」


「みよに感謝だな
えりではそこまで思い付かないだろうから」


感心している父の様子に閃いた


「ご褒美に破れた服を買って?
えりを守る為に怪我までしたんだもん」


ダメ元でのお強請りも
首筋の傷を見るだけでカードを渡された


「じゃあ。今日はこれで帰るね」


更衣室で予備のブラウスに着替え
止める父を完全無視で駅へと向かった


デパートと駅ナカ、いつものコースで買い物を増やし


大きなショップバッグが両肩に幾つも掛かったところで諦めた


「てか、電車に乗るのダルい」


社会人と付き合うと車が当たり前になる

甘やかされた二ヶ月余りを振り返ったところでポケットの中の携帯電話が鳴り出した


【進】


「もしも〜し」

(みよちゃんどこ?)

「ん?」

(お父さんから怪我をしたって連絡があってね」

「あ〜ね、今はデパートだよ」

(直ぐに迎えに行くね)


どうやら私は過保護らしい
というか・・・父が院長に連絡するとは思わなかった