「みよ、今日も手伝いにおいで」


もう遠慮もなくなった父の催促に

「最近多くない?」なんて

渋々のフリをして出勤する車に乗った


「みよさん。おはよう」


笑顔の土居さんの隣の席に着くと


「これと、これと」


デスクの上に仕事を置かれた

土居さんとお喋りをしていると
何度となく姉と目が合う


その理由は明白、二人は付き合っているそうだ


土居さんに小声で「ねぇねぇ」と手招きすれば、上半身だけ傾いてきてくれた


「えりが妬いてるよ〜、怖いねぇ」


「・・・っ」


良いこと思いついた


「そのまま、みよを見て笑って」


「・・・え」


一瞬躊躇った土居さんも
悪魔の囁きに屈して言う通りにした

途端に、デスクから立ち上がった姉は

ゆっくりとこちらに歩いてきた


「みよ!遊んでないで仕事しなさい」


やだ・・・分かりやすい


「やだぁ、怖いね土居さん
えりって怖いね、やっぱ年だからかな」


そう言いながら椅子を近づけると


「みよっ」姉は珍しく大きな声を出した


その声に周りの従業員さんが一斉にこちらを見たから
我に返った姉は顔を真っ赤にして席に戻った


「めちゃくちゃ可愛いじゃん」


悪魔の囁きは八つも年の離れた姉の新しい一面を見つけることになった


「みよさん。えりさんに意地悪しないでください」



店の中で姉を妬かせて遊んでいたのに
二人は物件の引き渡しとかで仲良く出掛けてしまった


・・・退屈


ため息を吐いたところで
入口の自動ドアが開いた


一歩入った所でキョロキョロするのは学生さんかな

そう思って観察していたけれど
物件検索用パソコンは一瞥しただけでスルー

ずっとカウンターの中の従業員を見ている


そのシルエットに既視感を覚えた

・・・んと

こちらの視線に気付くと取り繕うように
三台ある物件検索用パソコンの真ん中に座るところなんて益々怪しい


・・・友達じゃなくて、誰だっけ


タッチパネルを操作している姿に
違和感を覚えてカウンターから出た


彼女の隣に腰掛けて
「なにかお手伝いしましょうか」

口角を上げ営業スマイルを見せてみる


「いや・・・あの、んと」

曖昧に返事をした女の子は
私の首から下がる名札を見た途端、眉根を寄せた


「・・・」あ、この子


私の中で小さく丸められて消えかけていた記憶が現れた


・・・土居さんの元カノだ


名札を見て顔を確認したということは
えりと付き合っていることを知っているということで

頭の中を色々な事が駆け巡ると同時に幸せそうな姉を思い出した


「あの、えっと、大学の先輩が
ここで働いているって、聞いて」


「名前、教えて頂けますか?」


「土居さん、土居勇人さんです」


もじもじしていた癖に名前だけはハッキリ答える元カノに
外回りに出掛けたことを告げると
「また来ます」とあっという間に出て行った


「何あれ」


姉が土居さんと付き合っていなければ、放置するに限る案件だけど

幸せそうな姉を思い出すだけで居ても立っても居られない

近くにいた部長に外に出ると告げて
名札を外すと携帯電話をポケットに入れて店を飛び出した