「馬鹿面やめなさいよ」


「・・・っ、お試しって」


「そのままの意味よ
喧嘩売ってんの?」


「滅相もない」


「で、それがなに?」


「いや、あの時の進さんの怒りようは半端じゃなかったんだけど
もう一人、同じように怒る人に会ってさ」


「・・・っ、彬ね」


彬は私が倒れたことを何故知ったのだろうか


「・・・え、知ってるの?」


「知ってるもなにも、付き合ってたから」


「・・・ある意味俺はみよちゃんが一番怖いよ」


「意味不明」


「俺が知ってる限りであの二人が女の子のことで腹を立てるとか皆無だし
それに、名前を呼ぶとか、呼び捨てにするとか
天変地異でも起こりそうな気しかしねぇ」


大袈裟なチャラ男の話に
コーヒーは空になった


♪〜


ポケットの中で鳴り出した携帯電話を取り出すと


【進】


想像していた人だった


「どうぞ」


ここで出て良いと言われたから耳に当てた


「もしもし」

(みよちゃん、おはよう)

「もうすぐお昼だけど」

(ハハハ、そうだね。えっと
ランチに誘いたいんだけど)

「いいよ」

(じゃあ迎えに行くからね)

「あ、と、今ね外に出てるの」

(じゃあそこに迎えに行こう
場所を教えて)

「えっと、チャ、藤原さんの店って言えば分かる?」

(・・・どういうこと?)

途端に低くなる声に向かいに座るチャラ男を見た

「父の会社に行く途中に会ってね
お茶に連れ去られたの」

(そっか、分かった
ってことは一号店だよね)

「うんそう」

(直ぐに着くから待ってて)

「うん」


終話をタップするとチャラ男は食い気味に口を開いた


「もしかしなくても進さん?」


「そうだけど」


「あ゛ーーーーっ」


両手で頭を抱えたチャラ男は


「“連れ去られた”って
やばい殺される」


眉を下げた


「大体大袈裟なのよ」


「大袈裟じゃないって、みよちゃんは進さんを知らないから」


「俺がなんだって?」


「「・・・っ」」


さっき電話を切ったばかりの院長の声が
聞こえてきたことにチャラ男と二人で固まった


「みよちゃん、昨日振り」


「うん」


隣に座った進さんは


「藤原、みよちゃんに余計なことを話すと
望まなくても気持ちよく逝かせるけど」


冗談にしては怖いことを涼しい顔で言い切った


「いやいやいやいやいやいや
申し訳ないっす。俺まだ志半ばっす
この世に未練しかないっす」


静かな怒りを読み取ったチャラ男は
何度も何度も頭を下げて


「是非、お二人をディナーに招待させて欲しいです」


「機会があればな」


最後は引き攣り笑いで見送ってくれた


「さて」


「ん?」


手を繋いでコインパーキングまで歩く間に


「俺の彼女がどうやったら藤原に攫われるんだろうか」


院長は真剣に頭を悩ませていた


「フフフ」


「ん、なに?」


「進さんは“浮気だ”って責めないのね」


「誰と比べてるかはもう聞かないけど
みよちゃんがアイツと浮気するとか
断じてないと宣言できるからね」


「それ、正解だよ」


「だろ」


「地球上にチャラ男しかいなくなったら潔く死ぬよ」


「流石、みよちゃんブレないね」


「たまたま会って、話の流れでコーヒーを飲んだだけ」


「強引に誘われたんだろ」


「疑われてなくて良かった」


胸と頬を押さえた院長は


「彼女ができるって、アンチエイジングかもしれない」


アイドル並に可愛い顔で笑った


「若返りに一役かってる?」


「かなりね」


「フフ」


「サァ、お姫様、今日のランチは
海を見ながらのお好み焼きを予定していますよ」


「海!」


「おっ、食いついたね」


「釣られます〜」


「今日は大漁だ」


「「フフフ」」


助手席に乗って眺める海岸線は
いつもより海の反射が強い気がした