「おかえりなさい」


「・・・た、だいま」


家に入ると母が玄関で待っていた


「祥子さんから電話があったけど
高校生だからもう少し早く帰らなきゃね」


妙にテンションを上げて話す口元だけを見つめて

とりあえずの無視

階段を駆け上がると部屋に入り鍵をかけた


「・・・ハァ」


小学六年生で線引きした母との関係は六年経った今でも変わらない

だから、なるべく避けているし
家では出会しても無視をすることが多くなった

周りは関係修復のために頑張っているようだけれど
私自身、それは必要ないと思っている


「えっと」


迷いなくクローゼットの中に入ると
棚に並んだアルバムを二冊手に取った


・・・どれだっけ


四年前の写真を確認するためにパラパラとそれを捲る

祥子ママの家族とうちの家族で行った韓国旅行は
祥子ママの家で二年間暮らしていた私が
家に戻るための予行のようで
沈んだ気持ちは写真からも伝わってくる


「見つけた」


焼肉屋さんで撮った写真の中に
おじさんを見つけた


・・・本当だった

母が居る家に戻りたくもないのに
強く望んだのは父だった


嫌々行った旅行
あの頃の私は毎日が不機嫌だった

だから、楽しい思い出は浮かんでこない

朧気な記憶を呼び起こそうとするけれど、霧がかかったままの頭はどうしようも無い

アルバムを持ったまま階段を駆け下りリビングルームに入ると、ちょうど父がソファに座っていた


「あのね。祥子ママと四年前の韓国旅行の話しになってね
懐かしくなってアルバム出してみたら知らない人が写ってんの。これ誰?」


「あ~これか、青野グループって知ってるか?」


「知ってる」


「AON総合開発の息子だよ
確か見合い話が出てたのに違う女と来てたな」


「見合い?」


「所謂“政略結婚”ってヤツだが、流れたって聞いた
そのルックスと副社長って肩書きからか引く手あまただが・・・
それがどうかしたのか?」


「ううん。何でもない」


「みよには縁遠い男だ。ダメだぞ」


「何もないってば」


ボロが出る前にとアルバムを持って部屋に戻れば携帯電話が鳴っていた

【祥子ママ】

(みよちゃん帰ったの?)

「うん。もう家だよ」

(大丈夫だった?)

「大丈夫じゃないよ。試しに一ヶ月付き合えって」

(付き合うの?)

「そうでも言わないと帰れない気がして」

(兄さんに叱られちゃう)

「秘密ね」

(大丈夫?何もされてない?
手が早いので有名だよ)

「キスされた」

(うそ、どうしよ)


母とは違って祥子ママには何でも話せる

終わらないお喋りにベッドに寝転がった