「みよちゃんのブランケットから」


大型スーパーに入店している雑貨屋さんから始まった買い物は


「これ可愛い」
「本当だ」


触り心地の良いクッションで止まり
もふもふのスリッパで悩み

お試しだからと迷う私に、小さなことだよと院長は背中を押してくれる

結局、シンプルな部屋に置くには
勇気の要るような可愛い色を買ってしまった


それらは院長が一度車に置きに行った


「みよも払うのに」


アルバイト代を貯めているからと伝えたのに
院長は首を縦には振らなかった


「可愛い彼女に買ってあげたいの」


「破産してもしらないからね」


「ハハ、お手柔らかにね」


「フフ」


手を繋いでカートを押すだけの時間は
とても新鮮で楽しい


「夜は食べに出掛けるから
お昼の買い物ね」


どうやら巣篭もりは本当に長時間らしい

食料品売り場の買い物は量り売りのお惣菜から

其々が食べたいものを少量パックに入れるだけなのに
好みが被るから、結局中サイズパックに格上げした


炭酸水とお菓子を最後に入れて
並んだのはセルフレジ


「だめ、もう、めっちゃ興奮してる」


小さな頃に憧れたレジが出来るというだけで
待っている時間さえ楽しい


「俺も初めて」


院長も同じようにワクワクしているのが分かっただけで


少し不安に思っていた“話し合い”は
嫌な話じゃない気がした


そうして並ぶこと数分


順番が回ってきて、商品をスキャンすること二十回


バーコードを読み取らせるだけなのに
二人で悪戦苦闘すること数分

更に、店員さんに助けを求めること三回


支払いを済ませて袋詰めしたあとは
グッタリ疲れていて


「次からは店員さんのいるレジに並ぼう」


「だね」


憧れたレジ打ちは完結した







「さぁ、どうぞ」


軽い物だけしか持たされず
着いた院長の家は

相変わらず綺麗で生活感が感じられないモデルルームのようだ


「毎日帰って来てる?」


「あ〜、余り帰ってないかな」


「・・・、女の子?」


「コラ、それは流石に怒るよ」


「だって」


「それもちゃんと説明するから、ちょっと待ってね」


「うん」


買って来た袋の中からスリッパを取り出した院長は
タグを切ると足元に置いてくれた


「みよちゃんは座ってて」


「え、手伝うけど」


「じゃあお願いしようかな」


「うん」


袋詰めした物を取り出しながら
順番に片付けていく


「お菓子はローテーブルの上に置こうか」


「うん」


飲み物とデザートを冷蔵庫へ入れて
買い物袋が空になった


「ハーブティいれるから座ってて」


「は〜い」


手触りの良いブランケットを持ってソファに腰掛ける


前回来た時と違うのは
窓は青空を見せていることだった