「みよ、話があるんだ」


院長に送って貰った夜に
寝ている部屋に入ってきた父は
グルリと部屋を見回してソファに座った


「母さんから聞いた」


「院長とのことでしょ」


「あぁ」


真っ直ぐ向けられる視線は揺れていて
こういう父は珍しい
だから、仕方なく話を振ることにした


「なに」


「彬君とは本当に別れたのか?」


「本当もなにも、別れたよ」


「そうか」


「話はそれだけ?」


「・・・いや、あのな」


「ん?」


「明日はレガーメの最終抽選会と懇親会なんだ」


「知ってる」


「みよにも手伝って欲しかったんだが」


「行かない」


「体調が悪いのなら仕方がないが」


「えりだけでいいじゃん
彬に会いたくないの」


「・・・だろうな」


「諦めて、えりを連れて行ってよ」


「今回は諦めるが、レガーメはうちの会社がメインだから
これから先も何かしらあるんだ
別れたのなら気持ちを切り替えろよ」


無言で頰を膨らませてみたけれど
父には効かないようで


その圧力に負けた


「元気になったら考える」


我ながら上手いこと言ったと頷いてみたのに


「若いんだから直ぐに忘れるさ」


これも父には効かなかった





ーーーーー翌日



「柴崎進です」


鉄は早いうちに・・・とかで
院長は挨拶にやって来た


「入院の時から先生にはお世話になりっぱなしのようで」


「いいえ、若いから回復も早くて
羨ましいくらいですね」


「お父さん、先生って聖愛の校医でもあるんですって」


「そうか、なら安心だな」


彬の時とは真逆の友好的な両親の態度が笑える


「今日は出掛けようと思っていまして」


「うちは構いませんよ」


「遅くても夜八時には送ってきます」


「あぁ、有難いな。流石は院長先生だ
よろしくお願いします」


「みよちゃん、行こうか」


「うん」


院長との付き合いは
彬と全てが違っている


車も自分で運転するから私は常に助手席

家は一人暮らしでいつでも二人きりになれる


「どうかした?」


私の変化に気付いてくれるのは同じでも
院長の方が対応が大人だと思う


「ううん」


「嘘」


「・・・え」


「今日はみよちゃんと徹底的に話し合おうと思ってる」


「話し合うの?」


「そうだよ」


「分かった」


「だからね、先ずは色々買いに行こう」


「・・・巣篭もり的なの?」


「おっ、それ良い表現だね」


「フフ」


郊外の大型スーパーまでの道のりは
付き合いたてのカップルあるあるの
思いつくままに質問を考えては
答えを出し合った


「好きな果物は」


「「苺」」


「卵焼きにかけるなら」


「「醤油」」


「フフ」
「ハハハ、凄い」


そして、多くの質問で答えが同じことにも笑った