「藤原さんって人?」


「そう、チャラ男」


「絡まれたのもあるんですけど
みよちゃん、貧血の値が気になって」


「どこか悪いんでしょうか」


「一度婦人科でも受診することをお勧めします」


「そうですか、早く診て貰った方が良いわね」


「それはこちらにお任せくださいますか?
僕が責任を持ってみよちゃんを治します」


「・・・ありがとう、ございます」


微妙な空気を読んだのか母の視線が刺さる


「・・・なに」


「いや、えっ、と、その、ね」


聞いていいのか悪いのか悩み過ぎて口篭る母に


「言いたいことがあるなら言って」


優しくなるには、まだ時間がかかりそうだ


「・・・うん。あの・・・
みよちゃんと院長って」


そこまで口にしたところで


「後日ご挨拶に伺いますが
みよさんとお付き合いをさせて貰っています柴崎進です」


先に院長がバラしてしまった


「・・・っ、そうなんです、ね」


驚いて吃る母も、次の瞬間なにかを思い出したのか
看護師長さんを見て慌て始めた


「あ、そ、う、忘れてたっ」


「・・・っ、そうでした」


看護師長さんも慌てたように扉を開くと
チャラ男が立っていた


「・・・っ」


大きな花束を抱えたチャラ男は
そのまま床に這いつくばるように土下座をした


「この度は申し訳ありませんでしたっ」


床にオデコを着けたまま謝り続けるその姿に
面倒な気持ちが持ち上がって母に視線を送る


それに頷いた母は


「もう大丈夫ですから、頭を上げて下さい
みよちゃんも、もう良いよね」

本当は全然許したくないけれど、関わりたくない


「許すから帰って」


強く握られた手首には湿布が巻かれていて違和感がある
それも含めて早く忘れたい


自信タップリだったチャラ男は
更に数回頭を下げるとガックリ肩を落として帰って行った


「みよちゃん、あれは嫌いなタイプよね
母さん。なんとなく分かるわ」


「僕も同じくです」


しみじみと言う母に院長が同調した


「藤原は女の子に無視されるなんて
初めてだったんじゃないかな」


「知り合いなの?」


「まぁね」


「藤原の経営するイタリアンは
今のところ有名だから
群がる女の子達は多いだろうし」


「有名でもアレはないよね」


「確かに」


点滴が終わる頃には身体も楽になっていて
母と歩いて婦人科へ向かうことになった

診てくれたのは女医さんで
心配していた内診もなくてホッとする

結局、ピルを服用することになった


一日一錠の処方で二ヶ月後に次回予約を入れて終了

たったそれだけで体調回復が叶うらしい