「胸の音は大丈夫」


「良かった」


「次は採血ね」


看護師長さんが呼ばれると
採血されて点滴が繋がれた


結果が出るまでは問診と院長はベッドに腰掛けた


「たまにフラフラする?」


「高校三年の夏あたりからこんな感じです
学校を休むこともあったりして」


「このレベルだと。薬飲んだ方が楽になると思うんだけど
あとで婦人科に診てもらおうか」


「・・・婦人科って
ハードルが高すぎるんだけど」


「大丈夫。僕が診るから」


「・・・え、うそ、もっとやだ」


「ハハハ。うそだよ
みよちゃんは可愛い」


「それってさっき進さんを“可愛い”って言った仕返しなの?」


「まさか、みよちゃんは本当に可愛いから」


クスクスと笑う院長に釣られて
いつしか同じように笑っていた


「ひとつ聞いていいかな」


「ん?」


「みよちゃんは俺の彼女ってことでOKだよね?」


「お試しの」


「・・・ま、そこは譲歩する」


穏やかな表情の院長に頭を撫でられるだけで落ち着くのは
癒やし系というより“お医者さん”ってことだろうか


まじまじと顔を見つめる私の視線に気付いた院長は


「恥ずかしいんだけど」


と、クシャリと表情を崩して笑うと
一瞬近付いて唇を合わせた


「・・・っ」


驚いているうちにクスと笑った院長は


「次は目を閉じてて」


両手で頬を挟んで口付けた


啄むように触れる唇が
重なって・・・深くなる


優しい口付けに身体の力が抜ける瞬間


“みよはキスすると力が抜けるんだ”


意識の隅で彬の声が聞こえた気がした



「嫌だった?」


「・・・そんなの、聞かないで」


添い寝するように横になった院長は
頭を撫でてはオデコや頬にキスをする


「キス魔?」


「俺、キス嫌いなんだけど
みよちゃんとはキスしたいって
たった今、欲深くなった」


「・・・年を取ったとか」


「コラっ」


「「フフ」」


最後は二人で笑ったところで


コンコン
扉がノックされた


起き上がった院長が「どうぞ」と声をかけると


「失礼します」


看護師長さんがやって来た


「みよちゃんっ」


その後ろから母が顔を出した

ベッドのそばまで来た母は


「学校から連絡があったの、絡まれて倒れたんだけど
院長が診てくれて検査に連れて行ってくれたって」


「・・・そっか」


早口で話す母の顔を見て初めてホッとした