月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 アレクシスにものすごく世話になったティナは、彼に直接感謝を伝えることが出来ずに心苦しく思う。
 今頃、きっと彼は新しい聖女──アンネマリーの護衛に任命されているだろう。

「ティナ?」

 アレクシスのことを思い出していたティナは、トールに声を掛けられて我に返る。

「あっ、ゴメンゴメン。つい考え事してたよ」

「こっちこそ中断させてゴメン。今モルガンさんとルートをどうしようかって話していたんだけど、ティナはどう思う?」

 今から迂回ルートで隣国クロンクヴィストに行く場合、予定より二週間ほど到着が遅れてしまう。その遅れはモルガンの立場を考えると致命的かもしれない。
 しかし、それでもモルガンは安全を最優先し、ティナたちの判断に任せると言ってくれているのだ。

「……なるほど。でもステュムパリデスとシェロブなら、私とトールで討伐できるんじゃないかな?」

「ティナならそういうと思ったよ。モルガンさん、僕たち二人は予定通りのルートで大丈夫です」

「本当か? そりゃ、俺たちは助かるけどよ……。生命に関わることなんだぞ? 無理してないか?」

「これでも私、ステュムパリデスを討伐したことがあるんですよ。やつの弱点なら知っているし、シェロブの攻略法も知ってますから大丈夫です!」

 心配していたモルガンだったが、ティナの笑顔と堂々とした姿に安堵する。