「でも……私見たんです!!」

 誰もがフレードリクの言葉に懐疑的になっている中、ずっとフレードリクの横にいたアンネマリーが叫んだ。
 悲痛な声に生徒たちの意識がアンネマリーへと向かう。

「え? 見たって、何を?」

「そ、その……! クリスティナ様が巡行で学院を休まれていた日の放課後、貴族街で買い物をしていたら、クリスティナ様を見掛けて……それで……」

 アンネマリーが言葉を濁らせる。この先を話して良いのか迷っているように見える。

「ほら、アンネマリー。皆んなに教えてやってくれ。クリスティナがどれほど卑しい女だったかを!」

 フレードリクがアンネマリーに話の続きを促すと、意を決したらしいアンネマリーが、話の続きを語りだした。

「は、はいっ! クリスティナ様は、その、大柄で人相が悪くて、言葉遣いも荒々しい粗暴な男性たちと親しげに歩いていたんです!! 私びっくりして、あとを追いかけたら……」

 生徒たちはアンネマリーの言葉に耳を傾け、静かに話を聞いている。その様子に、アンネマリーはニヤリと口角を歪ませた。
 しかしその表情は一瞬で、そんなアンネマリーに気付く者はいない。

「……クリスティナ様が、その男たちと平民街の……とある建物の中に、一緒に入って行って……! 私、とても怖くなって、その場から逃げてしまって──!!」

 アンネマリーが言葉を詰まらせ、両手で顔を覆う。その姿はまるで信じていた者に裏切られた、純真無垢な少女のようだった。