月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

「アネタちゃん、よろしくね」

 ティナはアネタに視線を合わせ、優しく微笑んだ。一瞬、きょとんとしたアネタだったが、ティナの笑顔につられるように、にぱーと満面の笑顔を浮かべる。

「か、可愛い……っ!!」

 アネタの屈託ない笑みに、ティナは一瞬でノックアウトされた。
 元々子供好きだったティナは、アネタと一緒に旅ができることをとてもうれしく思う。

「あらあら、この子すごく人見知りするのに、ティナちゃんは大丈夫みたいね」

「俺はトール。よろしく」

 イロナの言葉を聞いたトールは、ならば自分はどうだろうとアネタに挨拶をした。
 しかしアネタは一瞬ビクッとした後、じーっとトールの顔を凝視している。

「あら? 少し怖がっているけど、嫌がってはいないわね」

 アネタの様子に内心トールはショックを受ける。しかし、よく顔がわからない人間を嫌がらないだけマシではある。

 イロナに叱られ、大人しく様子を見ていたモルガンが、ティナ達に横から声を掛ける。

「挨拶は済んだみたいだな。じゃあ、軽く打ち合わせするか。ちなみに二人はベルトルドさんからどこまで聞いてるんだ?」

「詳しいことは何も。ただ、クロンクヴィストまで護衛するように、としか聞いていませんね」

 ティナの返答にモルガンがきょとんとする。その表情はとてもアネタにそっくりだ。