月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 思わず涙ぐんでしまったティナを見て、ベルトルドが困ったように苦笑いを浮かべている。

「私はティナにこの世界を楽しんで欲しいんだ。そのためならどんな協力も惜しまないよ」

 世界にはまだまだ前人未到の地があるし、解明出来ない謎や不思議な出来事がたくさん溢れている。

 夜空に現れる幻想的な光のオーロラ、多く残る謎が好奇心を掻き立てる古代遺跡、青く輝く氷の世界が広がる氷の洞窟、大自然が作り出した、世界の果てを思わせるような景色──。

 ベルトルドはティナに、日常では絶対に経験できない、感動と興奮を知って欲しいと願っているのだ。

「──っ! はい、私も……っ! 両親やベルトルドさんみたいに、冒険を楽しみます!」

 ティナは堪らずベルトルドにギュッと抱きついた。そんなティナをベルトルドは優しく抱きとめる。

 その光景には血が繋がっていなくても、お互いを想い合う親子の姿が、確かな親愛の情があった。

 別れを惜しむ二人を、トールは眩しそうに、憧憬の眼差しで見守るのだった。