月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

「どうせ倉庫で腐らせることになるし、ティナに冒険者デビューのお祝いを兼ねてプレゼントするよ。大切にしてくれると嬉しいな。それと二人にぴったりな武器も入れてあるからね。後で確認してみて」

 そう言って微笑むベルトルドの顔は、ギルド長としての顔ではなく、まるで父親のように慈愛に満ちていた。

「……ベルトルドさん……! 本当に嬉しいです! 有難うございます……! 絶対大切にします!」

 ティナはベルトルドの気持ちが嬉しくて、胸がいっぱいになる。

 優秀な冒険者は装備選びを慎重にするし、手入れも怠らない。
 それはどのような装備を揃えるかで危険度や安全性、果ては体調まで全てが変わってしまい、場合によっては装備一つで命に大きな影響を及ぼすからだ。
 装備を疎かにする冒険者は長生き出来ない、というのがこの世界の常識となっている。

 装備の重要性を熟知しているベルトルドが、自分のために旅の装備一式を準備してくれた。しかも快適に旅ができるようにと希少な魔法鞄まで。
 それは、ティナを陰ながらも守ろうとする意志の現れに他ならない。