月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

「ティナの想像通り、俺は君に会うためにこの国に来たんだ。その理由は今はまだ話せないけど……。どうか俺を信じて、君を守らせて欲しい」

 ティナの思考を読み取ったかのように、トールはこれまでにない真剣な声で言った。……やっぱり表情はわからないが。
 しかしその声は、ティナがトールを信じるには十分な熱が籠もっている。

「……うん、わかった。トールを信じるよ。いつか理由を話せる時が来たら、ちゃんと教えてね」

 どうして別の国の人間であるトールがティナに会いに来たのか、どうしてティナを守りたいと言うのか、わからないことは沢山あるけれど、それでもティナはトールを信じようと思う。
 ──たとえそれが、聖女の力を手に入れるための(はかりごと)だとしても。

「有難う。信じてくれて嬉しいよ」

 トールが喜ぶ様子を見たティナは、もうこれ以上余計なことを考えず、無事クロンクヴィストに辿り着くために集中することにした。

「じゃあ、トールのギルドカードが出来次第出発かな」

「そうだね。明日の朝には出来ているらしいから、受け取ったらすぐ出発しよう。そう言えばティナはどこに行きたいの?」

「──あ。そう言えばまだ伝えていなかったっけ。えっとね、私、両親が冒険者時代に訪れた場所を巡りたくて……」

 ティナは両親が残してくれたものの中に、地図があったことをトールに伝えた。