月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。


「大神官様が仰るなら心配いらないな!」

「どうなることかと思ったぜ」

「あの聖女様、大丈夫かしら」

「聖霊降臨祭が終わったら、ゆっくり休めるんじゃないか?」

「神聖力ですぐ元気になられるだろ」

 聖女の本当の役目を知らない人々が気楽に言う。
 今の平和が少女たちの犠牲の上に成り立っているということを、彼らは理解していない──いや、理解しようとしなかった。
 聖女は神に選ばれた人間だから、自分たちを救うのは当然だと思っている。
 それは言い換えれば、救われて当然という傲慢な考えで、目の前の現実から目を背けているのだ。

 人々はこの状況の異常さを感じながら、”今回は無事終わったとしても、来年は大丈夫なのか?”とは思わない。大神官や神官たちがなんとかしてくれるだろう、と呑気に考えている。
 たった一人の聖女が齎した幸運が、永遠に続くと錯覚しているのだ。

 運良く与えられた平和を享受するだけで、自分たちで平和を守ろうとしてこなかった代償がどうなるのか──その答えを、人々はその後、思い知らされることになる。