セーデルルンド王国の王都にある、ラーシャルード神を崇拝する大神殿で今、聖霊降臨祭が行われようとしていた。
聖霊降臨祭は、王都を張り巡らしている結界を維持するために、年に一度行われる神事である。
神に身を捧げた聖女がその神聖力を以って、人々を守るよう神に願い、祈りを捧げるのだ。
普段は門を閉じている大神殿も、年に一度のこの日だけは門を開放していた。
そのこともあり、大神殿は神の奇跡を一目見ようとする民衆で一杯になっている。
「今回神事を行うのはクリスティナ様じゃないんだって?」
「ああ、何故か新しい聖女様に交代したとか」
「でもその場合、お披露目の儀式をする筈だよなぁ? 俺、全然知らなかったぜ」
いつもは聖霊降臨祭の開催に湧き上がっている民衆も、どこか落ち着かない様子だ。
無名の聖女が重要な儀式を執り行うことに不安なのかもしれない。
「大丈夫なのかねぇ……。まあ、大神官様がいらっしゃるから、心配ないと思うけどよ」
「でも、最近辺境の森で瘴気が発生してるって噂だぜ?」
「じゃあ、ここにも魔物が来るかもしれないのか?」
「いやいや、いくら何でもこの王都まで魔物が来ることはないだろうが……不吉だよな」
瘴気が発生する場所には、凶暴な魔物が現れるというのがこの世界の常識だ。
だから人々は瘴気が出ている場所を見つけるたびにすぐ浄化して来たのだ。
しかし今の王国は未曾有の事態に陥っていた。
国中のあちらこちらで瘴気が発生しているのだ。