月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 魔法オタクなところがある彼にとって「魔法学の父」と呼ばれているノアに魔法を教わる機会が得られたのは僥倖だろう。

「ふぉっふぉっふぉ。まあ、まずは嬢ちゃんと仲直りせんとな。坊ちゃんも気掛かりじゃろて」

「……はい」

 トールはノアの昔話を聞き終わった後、ノアに促されてティナとの関係を洗いざらい吐かされていた。
 話を聞き出すのも大魔導士級のノアに誘導されたトールは、それぞれの身分以外のほとんどのことをノアに知られることになったのだ。
 だからティナがトールから離れて、ここに一人で来た理由も知っている。

「嬢ちゃんは精霊王の湖を目指しとるでな。少なくとも満月の夜まではそこにおるじゃろ」

 空を見れば、満月が少し欠けていた。次の満月まであと三週間と少しだろう。

「精霊王の湖……。それはどこにあるんですか?」

 湖といっても、この広大な森の中で見つけるのは至難の業かもしれない。この森は小国ほどの広さがあるのだ。

「ワシもその場所は知らんのじゃよ。湖は『死の壁』と呼ばれる登攀が困難な絶壁に囲まれとるでな。歩いて行くような普通の方法じゃ辿り着けんのじゃ」