ちなみにノアが倉庫から持って来たワインは、500年以上前に滅亡した王国で作られた伝説のワインだったと、トールは記憶している。おそらく一本で白金貨一枚は下らないはずだ。

「えっ! そんな貴重なものを!? …………あ、いや、でも俺には難しいかと思います」

 トールは慌てて自分を抑えつけた。思わず論文を見せて欲しいと言いかけてしまったのだ。ただでさえノアの論文は内容が難解だと有名だ。きっと読むだけでも何ヶ月もかかってしまうだろう。

「ふーむ? 坊ちゃんの才能もかなりのモンじゃがなぁ。まあ、気が向いたらいつでもここへ来るがええ。ワシが坊ちゃんに教えてやるでな」

「えっ?! 本当ですかっ!? 有り難うございます! 大魔導士に師事できるなんて光栄です!」

 トールは昔から時空間魔法にすごく興味があった。しかし今優先すべきは何よりもティナとの再会だ。早く彼女に逢いたくて仕方がないのだ。
 だから今回は諦めようと思ったのだが、ノアからの申し出はトールにとってはとても有り難かった。