「いやいや、時空間魔法はそう簡単に取得できるようなものじゃないですよ」
トールとしても、時空間魔法が使えるのなら是非とも使ってみたいと思う。トールが使える転移魔法も時空間魔法の一種だが、難易度が全く違うのだ。
しかもクロンクヴィスト王国で最高の権威を誇る宮廷魔術師のフェダールでさえ、転移魔法までしか使えなかった。
それほど難解な時空間魔法は、今では先天的な才能が必要不可欠だ、という認識が世界共通になっている。
「そうか? ワシゃ研究してるうちに使えるようになったでな」
「いや、それはきっとノアさんが天才的頭脳を持っていて、しかも人間より時間があったからじゃないですか?」
時空間魔法は研究者が自身の人生を捧げる覚悟で挑む魔法だ。きっとノアが極められたのも、ハーフエルフの寿命の長さと優れた頭脳が奇跡的に合致したからだろう。
「坊ちゃんも学んでみんか? ワシの論文を見せてやるぞい」
ワインを飲んでいたノアが、超貴重な論文をトールに見せてくれると言う。ほろ酔い気分なのか、随分機嫌が良さそうだ。