月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 ずっと様子を窺っていたルシオラが心配そうに声をかけて来た。トールがかなり疲れて見えるらしい。

「いくら精霊を連れとっても、馬で森を移動するのは大変だったじゃろ。このお茶でも飲んでゆっくり休むがいい」

 いつの間にやら、お茶を用意したノアが戻って来た。よく見れば小屋の中の設備は充実していて、そこら辺の貴族が住む屋敷より快適そうだ。

「あ、有り難うございます」

 ノアが持って来てくれたお茶から爽やかな香りが漂って来る。トールが一口飲んでみると、ほのかな甘みが口の中に広がった。

「……美味しい、です」

 この国ではあまり見ることがない薄緑色のお茶は、人の心を落ち着かせる効果があるらしい。トールはここに来てようやく一息つくことができた。

 トールが素直にお茶の感想を伝えると、ノアは嬉しそうに笑う。

「そうかそうか。そのお茶は嬢ちゃんも気に入っとったでな」

 ティナの話をする時、ノアはとても優しい表情になることにトールは気がついた。
 その表情からノアはティナをとても大事に想っている──そんな気持ちが伝わってくるようだ。