月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

「……あ、すみません……。そうですか、ティナはもういないんですね……」

 ノア曰く、ティナはすでにここから去った後らしい。どうやらトールは一足遅かったようだ。

「まあ、出て行ったと言ったが、またここに帰って来るって言っとったぞい。ここには嬢ちゃんの部屋もあるからのう」

「え、そうなんですか?」

 ノアの話を聞いたトールは意外に思う。念願の冒険者になったティナが、定住出来る場所を作っているとは思わなかったのだ。
 彼女ならきっと、一つの場所に留まらず、世界中を冒険するだろうと思っていたのだが……。

「ほらほら、突っ立っとらんで座りんしゃい。聞きたいことがあればちゃんと教えるでな」

「あ、はい」

 小屋の中に入ってから、ずっと立ちっぱなしだったことに気づいたトールは、ノアに言われるがまま席についた。

「…………はあ。」

 椅子に座わったトールから長いため息が出る。

 一ヶ月もの間、ずっと野宿だったトールは、椅子に座ることすら随分久しぶりだったのだ。そんな状態だったからか、椅子に座った瞬間、どっと疲れが押し寄せて来た。

《トール大丈夫?》

「うん、大丈夫だよ」