それにここまでやってくる人間がいないので、乱獲されることなくそのまま残っているのも理由の一つだろう。

 気が付けば、太陽は完全に沈み夜の気配が濃く漂ってきた。
 そして静かだった湖面に大きく欠けた月が映ったかと思うと、光が集まるかのようにどんどん輝きが大きくなっていく。

《あら、ルーアシェイア様が目覚めたようよ》

「ルーアシェイア様が……っ」

 集まった光は人の形を成していく。しかし全体の輪郭はぼんやりとしていて、顔の判別は出来ない。それでもとても美しい姿なのだということは何故かわかる。

《珍しい気配がすると思ったら……人間、とフローズヴィトニルの子か》

 女性の美しい声がティナの頭に響く。
 少女のような可愛い声の精霊たちとは違う、深く澄んだ水のような、透明感がある声だ。

「初めまして、私はティナと申します。ルーアシェイア様が御座すこの地に立ち入った無礼をお許しください」

 ティナはルーアシェイアに向かって恭しく頭を下げた。その姿は冒険者というより聖女だった頃の名残がある。