月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

「とにかく、ギルド長がお待ちだから執務室に行こうか」

「うん」

 トールに促され、ティナが執務室へ入ると、疲弊し不機嫌そうな顔のベルトルドが待っていた。

「……ティナ……厄介な奴に目を付けられたね……」

「……へ?」

 ベルトルドのため息混じりの呟きを上手く聞き取れず、ティナが不思議に思う様子に、ベルトルドは再びため息をつくと「何でも無いよ」と諦めモードになった。

「ギルド長、俺をティナの護衛として認めていただけたのですよね?」

「……不本意だけど仕方無いね。取り敢えずトール君にも冒険者登録をして貰うよ。もし都合が悪いならこの話は無しの方向で──」

「いえ、大丈夫です」

「……じゃあ、一階の受付で登録してきてくれるかな? ティナは私と約束しているからね」

「……わかりました。では行ってきます。ティナ、また後で打ち合わせしよう」

 トールはティナにそう言うと、執務室から出ていった。

 表面上は和やかなものの、節々に剣呑な雰囲気を感じたティナは、ベルトルドに何があったのか聞いてみることにする。

「ベルトルドさん、トールと一体何があったんですか?」