トールはティナに会いたい一心で、街に寄ることなく通り過ぎ、<迷いの森>の入り口に降り立った。

 森は噂に違わず広大で、鬱蒼と生い茂る木々はまるで砦のような威圧感がある。普通の人間なら言い知れぬ恐怖を感じ、その場から逃げてしまうかもしれない。

「ルシオラは何か感じる?」

 トールは精霊であるルシオラがフラウエンロープへ近づくに連れ、元気になっていくのを感じていた。
 それはまるで、本来の力を取り戻していくかのようだった。

 ルシオラは嬉しそうにトールの周りを飛び回ると、森の入り口へとトールを誘う。

「……え? 案内してくれるって?」

 ルシオラから伝えられたイメージは、森の奥深くに巨大な力を感じる、というものだった。その力がルシオラに影響を与えているという。

「じゃあ頼むよ。もしティナの気配を感じたら教えてほしい」

 ルシオラから肯定の返事を伝えられたトールは、ルシオラの存在を頼もしく思う。ルシオラには今まで何度も助けてもらっているのだ。

「うん、行こう」

 まるで得体の知れない化け物が口を開け、一度入ったら二度と逃げられない──そんな錯覚を起こしそうな恐ろしい森に、トールは全く躊躇うことなく足を踏み入れた。

 ティナがいるのなら、そこが火山の噴火口でも海底でも構わず、トールは飛び込むだろう──ティナはずっと前から、トールの生きる全てなのだから。