月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。


 本当にアウルムが力を取り戻したのなら、ティナを追いかけるのは容易で無くなってしまった。それこそアウルムならフラウエンロープだけでなくイリンイーナへもひとっ飛び出来てしまうだろう。

(早くティナに追いつかないと……! どうすれば……っ!)

 さすがのトールも空を飛ぶ魔法は使えない。しかしこのままでは、ティナを見失ってしまうかもしれないのだ。

 ひどく焦りながら、トールはとある街に到着した。
 遠くの方に望む景色には、万年雪に覆われたフラウエンロープの山々が見える。今いる街からかなり離れているが、それだけ標高が高いのだろう。

(あそこにティナがいるのか……)

 目に見える場所にティナがいると思うと、今すぐ駆けつけたい衝動に駆られてしまう。
 しかし、ここはグッと我慢しなければ、とトールは自制する。

 今だに、トールはティナの魔力を感知することが出来ていない。
 無駄だとわかっていても、転移魔法さえ使うことが出来たなら──と何度も考えてしまう。