月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 ティナはギルドの受付に会議室使用の終了を伝えると、トールを連れてベルトルドの執務室へと向かう。

「ベルトルドさん、何度もすみません。ティナですけど」

 扉をノックをしたティナが中に声を掛けると、「おや? 随分早かったねぇ。まあ、入って」とベルトルドから返事が返ってきた。

「失礼します」

「失礼します」

 扉を開けて中を見ると、ベルトルドは書類に通していた目をティナ達の方へ向けた。そうしてティナの後ろにいるトールに気付くと、何とも言えない表情をする。

「えっと、彼は……」

「待って。俺が自分で言うよ」

 トールを紹介しようとしたティナに、その本人が待ったをかけると、ベルトルドに向かって一礼する。

「初めまして。私はトールと申します。ご高名はかねがね承っておりました。お会いできて光栄です」

 ティナはトールがベルトルドに物怖じせず、丁寧に挨拶していることに驚いた。
 見た目は優しげでも、只者ではない雰囲気を纏っているベルトルドは、高ランクの冒険者でも気後れするのだが。

「……初めまして。君はティナの級友かな? もしかしてティナの護衛を申し出にここへ?」

「はい。是非私に彼女の護衛をさせていただきたく、許可を頂きに参りました」