その小屋には、長い髭を生やした老人が一人住んでいたのだ。

「え、あ、はい。初めまして。私はティナと言います。えっと……」

「ワシはノアじゃ。ノアじいと呼んでくれてかまわんぞ? ふぉっふぉっ」

「いきなりそれはちょっと……。えっと、ノアさん、とお呼びしてもいいですか?」

 初対面でいきなり愛称呼びは気が引ける。それにノアは世捨て人のように見えるが、只者じゃない雰囲気を醸し出しているのだ。

「……そうか……それは残念じゃ……」

 本当に残念そうなノアだったが、「まあ、そのうちにな」と言っていたので、愛称呼びは諦めていないようだ。

「あの、ノアさんはここで暮らして長いんですか?」

 小屋が建っている場所は、かなり森の奥の方だと思う。そんな場所に人が住めるほどの建物を建てるのは、かなり難しいのではないか……とティナは考える。

「そうさなぁ……かれこれ30年ぐらいかのう……? 昔のことなんで忘れてもうたわ」

「えっ?! 30年、ですか?!」