月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

「何をするんだっ!! 目が見えなくなってもいいのかっ?!!」

 いつもは穏やかなフロレンツが激怒する。ここまで怒りをあらわにするフロレンツを、トールヴァルドは初めて見た。

「でも──」

「言い訳するなっ!! どんな理由があろうとトールが傷つくのは許さないっ!! 僕はもう君が苦しむのを見たくないんだ……っ!!」

 フロレンツは今にも泣き出しそうな、悔しそうな表情でトールヴァルドを見る。その顔には深い後悔の念を滲ませている。

 きっとフロレンツはずっと、自分の母がトールヴァルドの暗殺を企てたことに自責の念を抱いていたのだ。

 フロレンツがトールヴァルド至上主義になったのも、心の奥で罪滅ぼしの気持ちがあったのかもしれない。

「では、兄上が王太子になってください」

「え」

「そうすれば全てが丸く収まります」

「え? え? だから、それは……っ」

 フロレンツはぐいぐい押してくるトールヴァルドに困惑する。彼自身、優秀なトールヴァルドが王太子になるとずっと思っていたのだ。