月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

「ふぅん……。クロンクヴィストに行くのはティナだけ? パーティーメンバーと行くの?」

「いや、パーティーはまだ組んでいないんだけど、ベルトルドさん……じゃない、ギルド長に護衛として、誰か連れて行けとは言われてるんだよね」

 誰に護衛を頼むのかが問題だな、と考えたティナに、トールがさらりと言った。

「じゃあ、僕がティナを護衛するよ。一緒にクロンクヴィストへ行こう」

「うん。……ん? んん?」

 まるで「お茶でも飲みに行こう」みたいなノリで言うものだから、思わずティナも同意しそうになってしまう。

「え? いやいやいや! そんな軽いノリで言われても!! っていうか、トールはまだ学院の生徒でしょ?! 留学で来ているのに休むわけにも──」

「やめるよ」

「は?」

「ティナがいない学院なんて意味はない。君がいないのなら、俺もやめる」

 ──トールの言葉に、ティナの心臓がどくんっと跳ねる。

 ティナがいたから学院に通っていたのだと、そう告白するトールの顔は真剣で、冗談や思いつきで言ったようには見えない。

 先程からのトールの言動に、ティナの心臓はずっと高鳴りっぱなしで、顔は真っ赤だと自覚出来るほど熱くなっている。

「……っ! で、でも……!!」

 何とか平静を保とうと努力するティナだったが、顔は真っ赤なままで胸の鼓動もずっと速い。